トヨタのSUBARU出資比率は20%
トヨタは2019年9月27日、「SUBARU(スバル)への出資比率を現在の16.82%から20%へと引き上げ、持分法適用会社にする」と発表し、約800億円を追加出資する。同時にスバルは、トヨタからの追加出資額と同じ800億円を上限にトヨタ株を購入する予定。これでトヨタとスバルは「相互に株を持ち合う関係になる」。この結果、トヨタが株を相互に持ち合う自動車メーカーはマツダ、スズキと合わせて3社になる。
スバルとトヨタの資本提携は2005年10月に始まった。GMのカナダ子会社が所有する富士重工(当時)株をトヨタが取得し、トヨタは富士重工に8.7%を出資する体制になったときである。富士重工とGMは1999年12月に提携し、GMグループが富士重工に20%を出資した。GMの狙いは、欧州子会社のサーブ(その後、売却)の再建に富士重工の技術を借りることと、アジアでの販売強化だったが、双方が描いたような提携には至らなかった。
▲トヨタ86GR スポーツカー、86はトヨタとスバルの提携から生まれたモデル GRブランドはトヨタ・ガズー・レーシングのノウハウが注入されている
このとき、GMが手放す富士重工株をトヨタが引き受けた最大の理由は、富士重工が持つ防衛部門の存在だったといわれる。とくに航空機分野での富士重工は、三菱重工、川崎重工とともに自衛隊の機材を担う存在だ。同盟国アメリカの老舗優良企業GMが保有する富士重工株が、外資ファンドなどに買われる展開を嫌った日本政府が動いた結果だった。株式市場からは「米国でともに事業を展開したトヨタからGMへの支援」ともいわれた。
その後トヨタは富士重工株を買い増し、直近の出資比率は16.82%だった。この比率を今回、20%まで引き上げることが両者の間で合意された。出資比率20%になると、日本では持分法適用会社、つまり「関連会社」になり、株を所有する側は相手企業の経営への関与を強めることができる。
なぜトヨタは追加出資に踏みきったのか。その理由はまず、今後必要となるCASE関連への対応だといわれている。C=コネクテッド(走行中のクルマが外部の情報ネットワークとつながること)、A=オートノマス(自動運転)、S=シェアリング(カーシェアやライドシェアなど新しいモビリティサービス)、E=エレクトリフィケーション(クルマの電動化)がCASEである。中でも重要性が増す電動化技術を「トヨタがスバルに供与するのだろう」といわれる。
その一方で「海外投資家への警戒心も理由のひとつだろう」との見方が証券業界などにはある。単にトヨタがスバルを持分法適用会社にするだけでなく、わざわざスバルとの株持ち合いを行う理由は「日本国内の安定株主を確保するためだ」という見方である。トヨタとマツダ、スズキ、スバルは主従関係ではなく、事業ごとの協力体制を反映した株持ち合いという、世界的にも珍しい連携といえる。
トヨタは過去、自社の株を同業他社に持たせなかった。最初の例外が、17年8月に実行されたマツダとの資本提携である。両社の関係は04年にトヨタの車載情報ネットワークサービス、G-BOOKにマツダが参加したときに始まり、15年の業務提携を経て、17年に「互いに500億円相当の株を相互に持ち合う」という資本提携へと発展した。13年という、慎重を期した結果の資本提携だった。
スズキとトヨタの資本提携は、創業家同士の話し合いから生まれた。スズキの鈴木修会長とトヨタの豊田章一郎名誉会長が2人だけで会談し、鈴木会長が「提携しませんか?」と持ちかけ、それを豊田名誉会長が「いいですよ」と返事したことがきっかけだった。この合意が両社に持ち込まれ、どのような分野で協力体制を敷けるかが議論された。その結果、「スズキのインド生産拠点を活用し、トヨタとスズキがアフリカを含めたインド以西の市場を開拓する」というプランが最初に発表された。
▲トヨタはトラック/バスを生産する日野の株式の50%以上保有 小型車生産を得意とするダイハツはトヨタの完全子会社 マツダ/SUBARU/スズキにもトヨタは出資している
スズキもかつてはGMグループだった。資本提携は1981年に始まった。GMは苦手な小型車部門で日系自動車メーカーと協力しようと狙った。GMは小型車ブランドのGEO(ジオ)を新設し、スズキがカナダで生産するGEOブランド車を工場出荷時点ですべて買い取る契約を結んだ。北米事業が安泰になったスズキは、インド進出を決めた。
▲スズキS-PRESSO(エスプレッソ) スズキがインドで9月に発売した最新モデル 1リッターエンジンを搭載 全長×全幅×全高3565×1520×1549mm
かつてスバルとスズキはGMグループ、マツダはフォード・グループだった。この過去を振り返ると、日系3社を支えてきた米メーカーからトヨタへと盟主が代わり、しかもトヨタは「支配する」のではなくオールジャパンとしての結束を固める緩やかな資本提携に踏み切った。この提携が、海外資本による日本の自動車産業への侵食を食い止める防波堤を築いた、と解釈できるのではないか。
すでに海外では自動車メーカーの合従連衡の動きが活発だ。たとえばダイムラーは1998年にクライスラーと合併したものの、2007年に提携解消した。現在、ダイムラーの筆頭株主は中国の吉利ホールディングス(9.7%)、第2位はクウェート投資庁(6.8%)、3番手はダイムラーの中国合弁相手、国営北京汽車(5%)だ。メルセデスの大株主にドイツ企業がいない。かつてはドイツ銀行が大株主だった。
中国の2社がともに中国政府にダイムラー株を売却した場合、合計14.7%の出資比率になる。中国政府はすでにPSA(プジョー・シトロエン)に13.68%を出資し仏政府およびプジョー家と同率の筆頭株主だ。 トヨタが嫌っているのは、こうしたかたちで株を支配されることではないか。マツダ、スズキ、スバルも同じ思いに違いない。互いにメリットを得られるビジネス面での協力に自己防衛の機能も持たせた資本提携といえるだろう。