リチウムイオン2次バッテリーの画期性と重要性
▲リチウムイオンバッテリー(写真はホンダ・アコード用)はクルマの電動化を支える重要な存在
スウェーデン王立科学アカデミーは10月9日、「2019年のノーベル化学賞を米・ニューヨーク州立大学のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム卓越教授(77歳)、米・テキサス大学のジョン・グッドイナフ教授(97歳)、旭化成の吉野彰名誉フェロー(71歳)の3氏に授与する」と発表した。スマートフォンなど家電製品や電気自動車(EV)に搭載するリチウムイオン2次電池(LiB)の開発で主導的な役割を果たし、人々の生活を変えるほどのインパクトをもたらした点が評価された受賞である。
日本のノーベル賞受賞は米国籍を含めて28人目、化学賞の受賞は8人目である。なお、吉野氏は14年にチャールズ・スターク・ドレイパー賞(米国、工学分野のノーベル賞ともいわれる)を受賞している。
リチウムを電池に利用する技術は、1976年に米国の石油会社、エクソンの技術者だったマイケル・スタンリー・ウイッティンガム氏が提案した。正極(電池のプラス側)に二酸化チタン、負極(マイナス側)に金属リチウムを使う方式だ。金属リチウムのイオンがリチウムと二酸化チタンの間を行き来するときに化学反応によって電子を放出し、外部から電力を与えると元の位置に戻って電気を蓄えるという現象を確認した。
この化学反応はインターカーレーションと呼ばれ、のちに高性能2次電池の開発で最も重要な考え方となる。
ところが、二酸化チタンと金属リチウムの組み合わせでは安定した動作の2次電池にはならず、金属リチウムを使う電池は使い捨ての1次電池として実用化がスタートした。
▲トヨタ・プリウスPHV リチウムイオンバッテリーを駆動用として使用
80年にオックスフォード大学のジョン・グッドイナフ氏らがコバルト酸リチウムなど遷移金属酸化物を正極材に使用する方式を提案する。その翌年、旭化成工業の吉野彰氏らは、グッドイナフ氏らが立証したコバルト酸リチウムの正極には炭素材料を用いた負極を組み合わせる方式が適していることを突き止めた。
グッドイナフ氏と吉野氏のアイデアが現在のLiBの基本概念である。
さらにその2年後、グッドイナフ氏は安価なマンガン酸リチウムも正極材料として使うことができると証明した。吉野氏らは有機溶媒とセパレーターを使って正極と負極の間のイオンのやりとりを安定して行う技術も確立し、LiB実用化に大きく弾みがついた。
こうした技術開発の基盤があって91年、日本のソニー・エナジー・テックは世界初のLiBを商品化し、93年には旭化成工業と東芝の合弁会社のエィ・ティー・バッテリーもLiB量産を開始する。
なお、グッドイナフ氏とともにコバルト酸リチウムなど一連の極材物質の発見を研究したのは、当時オックスフォード大学無機化学研究所に留学していた水島公一氏(帰国して東芝に入社)であり、現在は生活の中に浸透しているLiBの実用化研究には日本の研究者が深く関わっていたのである。
ノーベル賞発表の4カ月前、EU(欧州連合)の機関である欧州特許庁は20199年欧州発明家賞を発表、非欧州部門の賞を吉野氏に授与している。過去、同賞はカーボンナノチューブを開発した飯島澄男氏らやQRコードを開発した原昌宏氏らが受賞している。
量産EVが各社から発売されるようになった現在、ほぼすべてのEVがエネルギー源としてLiBを搭載している。この事実が、吉野氏らの研究がもたらした成果の偉大性を物語るものといえる。