罰金1兆円以上!? 欧州メーカーがEV開発を加速する理由と、EV販売の現状

クルマは現在、電動化に向かって加速中といわれている。欧州メーカーを中心に、電動車両の開発目標が次々に発表されているが、現時点で販売されている電動車の比率はどうなっているのだろうか。また、欧州メーカーが電動車両の開発を急ピッチで進める背景にあるCAFE(企業別平均燃費)の厳しい規制についてレポートする。

厳しくEV開発を迫る欧州のCAFE規制

Model 3.jpg▲テスラ・モデル3 ピュアEVのベストセラーモデル

 自動車は電動化の時代。エンジンはもはや古い――日本のメディアは、「いずれ自動車はBEV(バッテリー電気自動車)に置き換えられる」という論調が目立つ。世界的に自動車が排出するC02(二酸化炭素)規制が強化されつつあり、化石燃料を使わないBEVが「環境に優しいクルマ」だといわれている。では、はたしてBEVはどれくらい売れているのだろうか。

 欧州自動車工業会が発表した昨年のECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=外部からの充電で走行できるクルマ)販売台数は、EU(英国を含む欧州連合)域内が46万5026台、前年比53%増だった。アイスランド、ノルウェー、スイスのEFTA(欧州自由貿易圏)3カ国を加えると56万4225台、同45%増となる。全乗用車販売台数に占めるECVの比率はEUで3.03%、EUとEFTAでは3.57%だった。

eゴルフ.jpg▲VW・eゴルフ VWは2023年に年間100万台のEVを生産する計画を明らかにしている

 ECVの販売台数が最多だったのはドイツの10万8839台だが、ドイツで販売された全乗用車の中での比率は3.02%と欧州平均と同等だ。ECV販売比率トップはノルウェーで、全体需要14万2381台のうち7万9640台、実に56%がECVだった。

 ノルウェーのECV比率が過半数を超えているのには、理由がある。自動車メーカーのないノルウェーでは販売される全自動車が輸入車であり、ECVを購入すると輸入税免除、付加価値税(日本の消費税に相当)の25%減額、有料道路とフェリー料金の免除、ラッシュ時のバスレーン走行許可など、いくつもの恩典が設定されている。法人の場合は法人自動車税半額などの恩典が追加される。

Audi e-tron (1).jpg▲アウディeトロン55クワトロ アウディは2025年までに30以上の電動車両を発売する方針を発表した

 米国は昨年、約27万5000台のBEVが売れた。自動車販売台数の集計は民間企業が行っているため調査会社ごとの数値は異なるが、ウェブメディアのグリーン・カー・レポートは「昨年、初めて全米でのBEV販売台数がMT車を上回った」と報じている。また、カリフォルニア州に本拠を置くBEVメーカーのテスラは、「BEV世界販売台数が前年比約50%増の36万7500台になった」と発表した。テスラは昨年末に中国・上海に初の海外工場が完成した。

 世界最大の自動車需要国になった中国は昨年、NEV(新エネルギー車=BEV/PHEV/燃料電池車の合計)販売台数が前年割れした。中国汽車工業協会によるとNEV販売台数は120万6000台、前年比4%減。19年前半時点ではプラスだったが、7月に各地でNEV補助金が大幅にカットされた影響で販売台数が激減。とくに9〜12月は3カ月連続で前年同月比30%以上のマイナスである。中国のNEV統計には大型バスなど商用車も含まれ、全自動車販売台数中のNEV比率は4.68%だった。

メルセデス・デンザ.jpg▲デンザ(騰勢) メルセデスとBYD(中国)の合弁会社が開発したモデル

 中国政府は「原油輸入の削減」を図るとともに、「BEVで自動車強国」になることを目指していた。それだけに、NEV規制導入からわずか2年目でのマイナスは大きなショックだったようだ。2020年末で廃止する予定だったNEV補助金の交付を「当面継続する」と、急遽発表したほか、「ハイブリッド車4〜5台でNEV1台にカウントする」方針も検討している。

 中国工業情報省によると、2018年度に支払ったNEV補助金額は138億元(2130億円)、支払い対象は55社だった。中国の場合、NEV補助金は購入者ではなく自動車メーカーに支払われる。その理由は、「補助金分だけ消費者には安く販売し、同時に研究開発を加速させなさい」という意図があるからだ。

 しかし、NEV販売台数の半数ほどは自動車メーカーが運営するカーシェア会社などグループ企業や取引先部品メーカーなど、いわば「身内が購入している」という指摘がある。一般消費者にどれだけNEVが売れたかは、わからない。

 ブルームバーグが行った欧州での市場調査によると、BEVを買わない理由として「同じクラスの乗用車に比べて割高」「航続距離が短い」「高速道路や市街地の充電設備が少ない」「充電に時間がかかりガソリン車やディーゼル車のように5分でエネルギー補給できない」などが挙げられた。中国でウェブ媒体が行った調査でもほぼ同じ結果が出ている。

 要するに、「BEVにはまだ価格競争力がなく、実用面でも弱点がある」というユーザーの評価が浮かび上がってくる。価格面を政府や自治体の補助金で調整するにしても予算の限界がある。

ジャガー・アイペイス.jpg▲ジャガーI(アイ)ペイス ジャガー初の電気自動車 メーカーは「パフォーマンスSUV」と位置付けている

 いま、日米中およびEUでは自動車メーカーごとに「1年間に販売したモデルの燃費を計算」し、その1台平均が規制値を満たせなかったメーカーには罰金が課せられるCAFE(企業別平均燃費)規制が敷かれている。とくにEUが厳しく、調査会社JATOの試算(2018年の販売データで計算)によれば、VWの罰金は1兆1028億円、ダイムラーは3612億円、トヨタ660億円など、経営を圧迫しかねない額になる(実際は2020年の販売実績をベースに計算し、21年に支払い義務が発生する)。

 日本国内での乗用車BEV販売台数は昨年、約2万台だった。全体需要は282万台だから比率は1%に満たない。日本の燃費規制は「省エネ」基準であり、CO2換算していない点が欧州とは異なる。また、省エネ促進という意味では「BEVを走らせるための発電に使われるエネルギーもカウントする必要がある」という考え方だ。そのため、2030年燃費目標では、世界に先駆けてウェル・トゥ・ホイール(油井から車輪まで)の計算方法を導入した。EUの計算方法の場合、すべてのBEVがCO2発生ゼロになるが、日本方式は火力発電の比率を勘案したBEV燃費表示になる。

メルセデスEQC.jpg▲メルセデス・ベンツEQC400 前後アクスルにモーターを搭載した4WDシステムを搭載 総合出力300kW 普通充電と急速充電(チャデモ)に対応

 世界でのBEVあるいはECVの販売台数は、まだごく少数である、そして、10年後でもECV比率は「せいぜい20%」というのが欧州の調査会社の見方だ。クルマの将来は電動化一色ではなく、エンジンの時代は当分続く、といえる。

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