日本で販売されるウインタータイヤは、全体の約36%を占める。北海道、東北、北陸に代表される降雪地帯のユーザーをはじめ、関東周辺のドライバーでも「ウインタースポーツが趣味」というユーザーならウインタータイヤを装着しても不思議はない。ところが、米国で販売されるウインタータイヤは全体の約2.4%と、極めて小さな比率にとどまっている。米国ユーザーがウインタータイヤを装着しない理由は何か?
人気はオールシーズンタイヤに集中
イラスト●安田雅章
日本の積雪エリアに暮らすドライバーは、ウインターシーズン前にスタッドレスタイヤに履き替えるケースが一般的だ。
米国の冬タイヤ事情はどうなっているのか。カリフォルニア、テキサス、フロリダなど国土の南側にある場所では冬でも雪が降る日数は少なく、降っても山間部などが中心だ。そのためロサンゼルスなどではウインタータイヤそのものが普及していない。
米国タイヤ製造者協会(USTMA)とモダンタイヤディーラーズ(MTD)の資料によれば、2018年に米国で販売されたタイヤは約2億1600万本。そのうちウインタータイヤは約 520万本(全体の2.4%)。日本の市販タイヤ(2018年、JATMA発表値)は全体で約7161万本で、このうち冬用タイヤは約2578万本(約36%)を数えている。いかに米国でウインタータイヤが利用されていないかわかる。ブリヂストンの場合、「米国で販売しているタイヤは、オールシーズンが圧倒的に多い」という。
▲グッドイヤー・アシュアランス・ウェザーレディ 北米で人気の最新オールシーズンタイヤ スノーフレークマークの認証に適合するウインター性能を確保
米国のタイヤはサマータイヤ、オールシーズン(M+Sタイヤ)、ウインタータイヤに大別できる。
最近は、オールシーズンタイヤのスノー性能を高めた3ピークマウンテン・スノーフレークマーク(3PMSF、スノーフレークマーク)付きタイヤをウインター用として推奨するケースが米国で増えてきた。
2018年に北米ミシュランが米国のスノーベルトと呼ばれる中西部や北部(デトロイト、シカゴ、クリーブランド、シンシナティなどのエリア)の豪雪地帯のユーザー1000人に行った調査結果が興味深い。調査によると「5人中3人が雪中ドライブでスリップを経験」しているが、「ウインタータイヤを装着するユーザーは5人に2人」と半数以下だ。
ウインタータイヤを装着しない理由として67%が「オールシーズンタイヤを装着しているので必要ない」と回答。また53%は「4WD車に乗っていれば、スノータイヤは必要ない」と考えている。
▲グッドイヤー・ラングラー・デュラトラック マッドテレーンタイヤのスノー性能を高めた希少モデル 北米オールシーズンタイヤはスポーツタイプやエコタイプなど種類が大変豊富
米国ユーザーは、なぜ冬場でもオールシーズンタイヤで大丈夫と思うのか。ひとつには、高速道路の融雪システムが非常に進んでいる点が挙げられる。雪の多い地区では融雪車が大活躍し、融雪剤の散布なども頻繁に行われる。このため、高速道路が積雪で通行止めになる、という事態は滅多に起こらない。
除雪・融雪が行き届いた米国の道路環境でもウインタータイヤに履き替えるというユーザーは「自宅付近が雪深く、高速道路までのアクセスに不安がある」、「近所が坂道になっている」などの事情で、「オールシーズンタイヤでは不安がある」からだ。
実はアメリカでは豪雪地帯であっても冬場にウインタータイヤ装着を義務付けている自治体は非常に少ない。義務付ける条例を持つ自治体はあるものの、罰則はない。もちろん山道など一部では、チェーン規制が行われる。当局が雪道の安全対策に無関心というわけではない。
▲フォード・レンジャーのウインタータイヤ装着例 米国ではウインタータイヤの装着を義務づける自治体は極めて少ない カナダはケベック州が冬季の期間限定でウインタータイヤの装着を義務づけている
温暖なイメージのロサンゼルスだが、近郊には富士山並みの高い山岳地帯があり、スキー場もある。通常はスキー場までオールシーズンタイヤで行けるが、降雪時など、山道に差し掛かったところでチェーン規制が行われる場合がある。それでも4WDは規制の対象外だし、ウインタータイヤを履いていれば問題ない。
タイヤメーカー、そして『コンシューマーレポート』誌などは「ウインタータイヤはオールシーズンタイヤに比べて明らかに雪道での優位性があり、ウインタータイヤを装着すれば、ユーザーは冬でも安心してドライブできる」とアピールしている。それでも米国ユーザーはなかなかウインタータイヤに目を向けない。
氷雪に覆われた特殊な路面状態に対応した冬用タイヤを選ぶ......日本のユーザーにとって当たり前の行為が、米国のユーザーには信じられないだろう。