中国・武漢で新型コロナウイルス(COVID-19)感染による経済活動の停滞が深刻になってきた。武漢市は中国で2番目に古い東風汽車の本拠がある都市で、人口は約1100万人。自動車工業が盛んな都市として知られ、東風汽車集団の中にはプジョーやシトロエン、ルノー、日産、ホンダなどが参加している。武漢での生産活動が停滞し、武漢からのパーツ供給を受けるメーカーの生産にも影響が出てきた。感染の被害が一日も早く収束することを願うが、武漢とはいったどんな都市なのか、中国事情に詳しいジャーナリストにレポートしてもらった。
サプライチェーンの崩壊で日本でも生産が停滞
▲東風汽車の都市型SUV 景逸X5 全長4515mm 1.6リッターエンジンなどを搭載
新型コロナウィルスによる肺炎、COVID-19の話題が毎日伝えられる。発生源となった湖北省・武漢市は2月14日現在、閉鎖されたままで、住民生活も企業活動も非常事態を余儀なくされている。
省都の武漢は長江(揚子江)中流に位置する中国の工業地帯であり、自動車産業では中国で2番目に古い東風汽車が本拠を置くほか武漢鉄鋼、中国船舶重工業などの企業がひしめく。COVID-19の流行が終息するまで湖北省は閉ざされたエリアになる。
武漢市は人口約1100万人、上海から西の内陸へ約750kmの場所にある。上海市は長江の河口であり、上海から長江を上ると南京市、蕪湖市、安慶市などを経て武漢市に至る。さらに長江を上ると内陸部の大都市、重慶市や成都市に至る。武漢は昔から長江を運河として使った交易の要衝だった。現在、武漢には東風汽車集団の自動車メーカーである神龍汽車(プジョー=標致、シトロエン=雪鉄龍)、東風雷諾汽車(ルノー)、東風裕隆汽車(日産)、東風本田汽車(ホンダ)などが工場を構える。
▲東風ホンダの武漢第3工場は2019年4月に完成 ホンダは第1〜3工場の合計で約60万台(年間)の生産能力を持つ
現在、武漢市は中国の国家発展改革委員会により国家中心都市、超大都市に指定されている。内陸部の経済発展を狙う中国政府にとっては、重要な都市である。また、UNESCO(国連教育科学文化機構)は武漢市をデザイン都市に指定している。企業だけでなく研究機関が多いのも武漢市の特徴だ。そのため、新技術やそれを活用した都市づくりが実験的に試される場所でもある。
昨年11月には5G(第5世代)通信を利用した無人の自動運転移動販売車が登場した。全周をカメラで監視していて、手招きするとクルマが近づき、飲み物と菓子のメニューを表示する。決済はQRコードのスキャンで行い、購入者に課金される仕組みを持った移動販売車だ。5G通信は運用が始まり、自動車分野でも5G利用の実証実験が始まっている。
▲広州市の電動バス 自動運転システムを搭載した路線バス 武漢市は自動運転のための実証実験を行う区画などの整理が進んでいる
その中のひとつが中国初の自動運転による路線バス運行試験だ。営業免許は昨年11月に交付された。東風汽車製の電動バスに武漢の深蘭科技が自動運転システムをはじめ、乗客の安全を見守る車内監視モニター、完全手ぶらでの料金収受のための指静脈認証システムなどを装備する。北京、上海、広州など中国の大都市ではすでにディーゼルバスから電動バスへの切り替えが進んでいるが、バスは運行ルートが決まっているためコストの安いリン酸鉄を使ったリチウムイオン電池を搭載するのが一般的だ。武漢の自動運転バスもリン酸鉄電池を使用する。
自動運転車の実証試験を行うための区画も整備されている。百度やアリババ集団などのIT(情報通信)系企業は武漢でさまざまな試験を実施している。
東風汽車の武漢工場では中国の人民解放軍に納入する野戦用4WD車、勇士を量産している。中国国内の自動車工場へ部品を出荷する部品メーカーも数多く存在する。その意味では、武漢は「自動車の街」という一面も持っている。
▲東風汽車・武漢工場で生産する「勇士」 中国人民解放軍に納入する野戦用4WD
東風汽車の車両工場は、2月12日現在、稼働を休止している。部品メーカーもほとんど動いていない。たとえ小さな部品でも、製造に必要な材料が届かなければ生産できない。いま、中国はCOVID-19の流行によってさまざまな工業製品の素材や部品が不足している。セレナやエクストレイルを生産する日産自動車九州は、部品調達の関係で生産調整を行うなど、具体的な影響が出ている。サプライチェーンの復旧には相当な時間がかかるだろうといわれている。