2月に入り、新型コロナウイルス は中国・武漢市を中心に感染拡大が大きな問題になった。東風自動車が本拠を置く武漢市は、周辺にも多くの自動車関連産業の工場が進出しているが、新型コロナウイルスの影響で生産がストップ。新型コロナウイルスの被害拡大が沈静化後に新車の生産を再開しようにも、部品の調達がままならない苦境に。中国の自動車生産方式の特徴を解説。
中国自動車生産の構図
▲東風ホンダのシビック(中国名は思惑) 中国での価格は180ターボ・グレードが11万9900限(約180万円/2019年5月)
新型コロナウイルスの感染者拡大で中国の自動車産業が大打撃を受けた。中国汽車工業協会(中汽工)がまとめた2月の中国国内自動車工場出荷台数は31万台、前年同月比79.1%減という前代未聞の落ち込み。中国政府が普及を進めているNEV(ニュー・エナジー・ビークル=新エネルギー車)の販売台数は1万3000台、同75.2%減。中汽工は「3月には間違いなく元の状態に戻る」とのコメントを発表したが、2020年暦年の自動車需要に関しては「前年比5%程度のマイナスが予想される」という弱気発言を行った。これは、2018年後半から続いている自動車需要の不振が今年も続くという宣言と受け止められる。
2月の日系自動車メーカーの中国販売台数(輸入を含む)はトヨタが2万3800台で、前年同月比70.2%減、ホンダが1万1288台、同85.1%減、日産1万5111台、同80.3%減、マツダ2430台、同79.0%減、三菱691台、同90.7%減、SUBARU(スバル)119台、同91.3%減だった。軒並みの大幅マイナス。そして今後、懸念されるのは、日本などから中国へ出荷している高級車の陸揚げがストップするケースだ。
たとえば上海と広州は、一部船舶の受け入れを拒否している。日本から中国への完成車出荷ができなくなると、現地生産を行っていないスバルは現在の在庫を販売した後は商品補充ができなくなる。日本から出荷するレクサスとインフィニティも、販売活動は大きな制約を受ける。
▲レクサスLS 中国で販売されるレクサス車はすべて輸入モデル(写真はトヨタの中国HPから)
中国国内では、3月中旬時点でも湖北省武漢市を中心に自動車生産が大幅な停滞を余儀なくされている。約2万〜3万点の部品で構成される自動車は、そのうちの1点が欠けても製品として成立しない。タイヤやボディパネルもあれば、ネジやブレーキホースの留め金具のような小さな部品もある。どれが欠品してもクルマは生産できない。
中国の自動車部品産業は、まだ生産台数が年間10万台以下の草創期にはロシアの国営企業が支援を行った。その後は欧州、米国、日本の企業が支援。とくに1990年代の「三大三小」政策で大規模メーカー3社、小規模メーカー 3社という体制が出来上がった時点から、欧米日の支援が活発になった。
現在は中規模以上の国営車両メーカーが20社ほどあるが、国産化の推進を指導してきたのは海外メーカーであり、部品産業も海外勢を模範として発展してきた。
そうした発展プロセスがあるため、ティア1(1次下請け)、ティア2(2次下請け)、ティア3(3次下請け)という部品産業の形態もそっくり中国に持ち込まれた。その結果、小さな部品は小規模零細企業が製造を担当しているケースが多い。自動車部品を製造するほとんどの零細企業は、今回のような不測の事態を経験していない。中国国営メーカーが傘下に抱えているティア1企業でも「どの部品がどれくらい足りないのかという情報が集まらない状況」だと中国の現地メディアは伝えている。
▲東風日産の広州・花都工場が生産するキャシュカイ(中国名は逍客) 東風汽車は日産/ホンダ/プジョーなどと提携している
そして、中国での部品製造の混乱が日本企業にも飛び火した。湖北省政府は武漢市封鎖の最中に「産業の影響が世界的に大きい企業」については操業再開を認めた。武漢は自動車産業の集積度が高い。ちなみに自動車産業は、いまや中国のGDP(国内総生産)の約7%を占める。自動車産業の休業はGDPを押し下げる要因になるからだ。これを受け、日系自動車メーカーはトヨタ、ホンダ、日産、マツダが2月17日までに生産を一部再開した。
ところが、工場内の部品の在庫が少なく、補充ができない状況だった。従業員が出勤しても、普段より大幅に少ない台数の車両しか生産できなかったのである。部品のサプライチェーン(供給連鎖)が寸断された影響は大きく、日系各メーカーは再度の休業という事態に。3月上旬になって徐々に稼働し始めた。
日本の自動車メーカーは日本国内で生産するモデルにも少なからず中国製の素材と部品を使っている。中国での部品生産がストップし、さらに日本メーカーに向けた船積みもできなくなった。そのため、日産が九州工場での生産を一部休止せざるを得ない状況に。この発表は2月10日だった。日産に続くかたちでトヨタ、ホンダ、マツダなどにも中国製素材・部品の欠品の影響が出始めた。
昨年、日本は海外から約9000億円分の自動車部品を輸入したが、そのうちの3300億円、約37%が中国からの輸入だ。中国から輸入されている品目は、シート生地やシートベルト、カーペットなど内装材、エアバッグ用の布、燃料ホース、ホース類の締め付け金具、ペダル類、樹脂製のブラケット、排気管など、走行性能や機能には直接的に影響がない部品が中心だが、次第にエンジン、トランスミッション、駆動系の部品でも中国製を採用する例が増えている。
中国製部品が増える理由は、日系自動車メーカーが中国で生産するモデル数が増えている点にある。中国は自動車部品の輸入に関税を課しているため、現地での部品調達を増やせば関税分の出費が不要になる。そのうえ日本より人件費が安いため、部品の製造原価を引き下げられる。当初は日系部品メーカーが中国に工場進出し、そこから日系自動車メーカーに部品を納入するというスタイルだった。ところが、現在は現地資本の部品メーカーとの取り引きも活発になっている。
新型コロナウィルスについて中国政府は「感染拡大は収束した」と宣言した。しかし産業界の混乱は拡大している。小売業では中小の商店の大量倒産が危ぶまれているが、クルマや家電関係は零細部品事業者の倒産が懸念されている。日系自動車メーカーはいま、サプライチェーンの見直しを迫られている。そうした対策の中には「中国抜き」という選択肢もある。