クルマに利用される抗菌効果の持続性
日本人は世界的に見て公衆衛生や清潔に対して敏感な国民であると言われる。この国民性の中で生まれたのは世界的にも珍しいといわれる抗菌ブームだ。日常生活の中のさまざまな分野に抗菌グッズが入り込み、いまや駅のエスカレーターのベルトや電車の吊り革にも抗菌処理素材が使われている。では、この抗菌とはどのような機能なのだろうか。
細菌に対する防護のレベルは3つに大別される。殺菌は、この文字のとおり菌を死滅させる機能であり、最も防護レベルが高い。この表現は医薬品のほか薬用石けんなど医薬部外品で使われる。除菌は付着した菌を有効数減少させる機能であり、おもに洗剤や漂白剤など雑貨品に使われる表現だが、細菌を減少させるという効果は備える。
これに対し抗菌は菌の増殖を抑制または阻害する機能を指し、キッチン用品や衣類、日用雑貨など幅広い範囲の製品で用いられる表現だ。JIS(日本工業規格)が認定する抗菌加工製品は〝抗菌加工されていない場合に比べ、その製品の表面での細菌増殖割合が100分の1以下であること〟という基準が適用される。
家電や住宅用設備・建材などに始まった抗菌処理樹脂は自動車の内装部品にも使われている。ステアリング、ドアトリム、シートなどすでに採用例が豊富だ。自動車の場合、家電製品やインテリア製品に比べて使用環境が厳しく、通常の自動車用素材としての耐久性・耐候性がまず要求される。変色や変質は完全に不適当だ。同時に抗菌効果の持続が求められ、半永久的な効果が理想だ。
抗菌効果が短期間でいい場合は、有機系抗菌剤が用いられる。石けんの主成分である界面活性剤やフェノール系薬剤などを素材に練り込んで抗菌効果を得る。有機系抗菌剤は、即効性があるのと同時に多くの菌種に対して一定の効果のあるものが多い。しかし、薬剤によっては耐熱温度が低く、樹脂系のような高温加工ができないほか、樹脂類に練り込んでも効果が次第に薄れるという欠点を持つ。
一方、無機系抗菌剤は亜鉛、銀、酸化チタン、マグネシウムなどの金属系やゼオライト、シリカなどがある。菌に対する即効性と抗菌能力は有機系に比べて低いが、樹脂に練り込んで成形するときの高温に耐えられるほか、樹脂ポリマーの中に抗菌剤が固定されて安定した抗菌効果が半永久的に持続されるという特徴を持っている。クルマに使われる抗菌剤は、ほとんどが無機系である。
細菌は無機系抗菌剤として使われる銀などの金属が持つイオンに弱いほか、光が当たると特殊な反応を起こす光触媒機能を持つ抗菌剤など、使われる場所に応じてその特徴を発揮できるよう抗菌効果が設計される。ステアリングやドアトリムなどの場合、特別なケアをしなくても抗菌効果は半永久的に保持される。
シート生地の場合は、撥水加工などの機能と抗菌機能がセットで採用される例もある。三菱自動車が汚れプロテクト加工を施したシート生地を開発したのは2009年であり、このときはポリエステル繊維の表面に樹脂バインダーをランダムに絡ませ、その上にフッ素系樹脂をコーティングしていた。水滴が乗っても繊維まで到達せず、多くのフッ素系樹脂コートの上に点接触するという機能だった。このシートはその後も改良され、一定の抗菌効果も確認されている。