新型ボルボXC90が搭載する検知技術の実力
ボルボは5月、「次世代ボルボ車にルミナー社のLiDAR技術を搭載する」と発表した。
自動運転実験車両に必ず装備されているLiDAR(ライト・ディテクション・アンド・レンジング、ライダーと呼称)と呼ばれるセンサーが一気に小型化へ向かっている。かつては高さと直径が、それぞれ30cmほどの円筒形で、車両のルーフ上に設置する360度回転式の全周スキャナーだった。現在は回転しないタイプや薄型のものが開発され、小型化も著しい。価格もどんどん安くなってきた。
LiDARの意味は〝光による検知と距離測定〟である。レーザー光を周囲に照射し、その反射光をセンサーで捉えて画像化する。360度回転式のタイプは全周の測定が可能であり、1960年代に実用化された。開発当初は航空機に搭載して地形の記録や気象観測に使用されていた。最初期のLiDARは非常に高価で、しかも現在に比べると性能が悪かった。後に軍用のセンサーとして発展し、米軍が車両搭載用の小型軽量品の開発を民間企業に依頼した1990年代以降、小型化が進んだ。
2000年代に入ると、米国防総省・国防高等研究計画局が主催する自動運転機能コンテスト、DARPAグランドチャレンジが注目され、ここに出場する車両のためのLiDAR開発が活発になった。その中の1社がヴェロダインで、同社が2007年のDARPAグランドチャレンジのために開発したLiDARが一躍脚光を浴びた。ヴェロダインはもともと米国のオーディオメーカーで、LiDARの開発は社長の趣味で開始したという。この分野で成功を収めた結果、オーディオ部門を売却し、LiDAR専門のヴェロダインLiDARを立ち上げた。
2007年からの数年間、ヴェロダイン製LiDARは自動運転車両開発現場の必需品となり、トヨタもヴェロダイン製を採用した。そして、このヴェロダインの成功に刺激され追従するメーカーが欧米で何社も立ち上がった。近年のトピックは米・ルミナー(Luminar)が開発した薄型の走査型レーザースキャナー内蔵タイプだ。スウェーデンのボルボ・カーズが2022年発売の次期XC90市販車に搭載すると発表した。
ルミナーによると、ボルボが採用する〝アイリス〟と呼ばれるLiDARは最大250mの測定が可能で、車載状態での測定角は水平方向に約90度、垂直方向に30度程度になるという。レーザー光を数百万のパルス状に放射し、インターネットに接続するなど外部インフラの支援を得なくても前方道路の3D(三次元)地図を作成できる。自己完結型のセンサーであり、対象物の反射率が低い場合でも〝物体の有無〟は検知可能といわれている。
ボルボはLiDARとカメラなどを併用する方式で、まず高速道路上での部分自動運転を実用化する方針。昨年12月にボルボは「レベル3だとかレベル4だとか、自動運転レベルの話ではなく、利用者にとって必要なものを開発する」と方針転換を発表していた。このほど次世代XC90へのLiDAR搭載を発表するに当たって「レベル3の自動運転相当」である可能性を示唆した。
レベル3は〝システムが運転し、システムが対応できなくなった場合は運転者が操作を引き継ぐ〟技術段階を意味しているが、システムが運転している間は運転者の前方注視義務は緩和される。スマホ画面を見ていても構わない。難しいのは「いきなりシステムがギブアップしたら運転者は対応できない可能性がある」点だ。ボルボはLiDARで高精度のデジタル地図を作成しながらAI(人工知能)を活用する技術で、こうした事態に備えるという。ボルボによれば、LiDARも含めたシステム全体の価格目標は1000ドル(約11万円)以下だとか。