ホンダとゼネラル・モーターズ(GM)は、2021年に「EV生産に関して提携関係」を結んだ。この提携から、具体的にどのようなモデルが開発されるのかはこれまではっきりしていなかった。GMが一昨年発表したEV用プラットフォーム、アルティアムを用いて「ホンダが米国向けEVを作るのでは」と予想されていたが、詳細は明らかではなかった。
今回、ホンダとGMは正式に「アフォーダブル(求めやすい価格)なEVをGMアルティアム・プラットフォームを用いて共同開発する」と発表した。2027年に米国での発売を目指す予定で、両社の北米での生産工場を活かし、年間100万台規模の生産を目指すという。
北米ホンダのEV部門トップ、リック・スコーステック氏は「お互いの強みを活かし、アフォーダブルな価格のコンパクトEV生産を目指す」とコメントした。ただしホンダにはeアーキテクチャーという独自のEVプラットフォームがあるため、ホンダ車の一部はアルティアムを用いるが、一部はeアーキテクチャーを使うことになる。その詳細についてはまだ明らかにされていない。
GMのメアリー・バーラ会長は「主要な市場である北米、南米、中国を含め、グローバルにアフォーダブルで魅力的なEVを両社の技術力、開発力などを用いて発表していく」とコメントした。最初は北米から、グローバルにパートナーシップを広げていく、という強い意志が表されている。
GMはすでに「米国内では2035年、グローバルでは2040年から内燃機関の乗用車の生産を終了し、カーボンニュートラルを目指す」と発表しているが、今回のホンダとの提携によるEVの大量生産計画はこのステップのひとつとなる。
さらに両社は自動運転でも提携を深める予定で、システムとしてはGM傘下のクルーズが用いられる。クルーズに関してはGMが日本のソフトバンクから持ち株分を買い取った動きが話題となったが、完全な子会社とすることでさらに開発を深めていくことになる。
クルーズにはホンダも出資しており、世界的にもGM、ホンダ、クルーズ勢は存在感が大きい。
こうした提携、グループ化が行われる背景には、フォードとフォルクスワーゲン(VW)、米仏伊の連合であるステランティスなど、EV開発をめぐり国境を超えた提携がどんどん進んでいる事情がある。
とくにフォードとVWはかなり野心的な提携を発表しており、テスラが現在圧倒的なシェアを占めるEV分野に切り込みをかけている。
一方でホンダは、日本ではソニーとの提携を発表している。これがいずれGMとの連盟関係となるのかどうかは現時点では不明だが、注目度の高いソニーEVを「仲間の一員」にすることで、デザインやソフト面での強みを発揮できる可能性もある。
また2017年にテスラモデル3よりも先に3万5000ドルを切る(政府補助金を含んで)コンパクトEV、ボルトを発売したGMだが、テスラ・キラーという触れ込みにもかかわらず、販売面ではテスラモデル3に惨敗している。
とくに昨年はバッテリー発火事故もあり、後半には生産を一時停止する事態となった。キャデラックのSUV、ハマー、シルバラード・ピックアップトラックなど次々にEV化を発表し話題にはなっているが、実際の販売はまだこれからだ。
今年の1〜3月期の米国内の販売を見ても、テスラが12万9743台と昨年比で87%増となっているのに対し、GMの販売台数はボルト(欧文表記はBolt、EVとEUVの2タイプで358台、プラグインハイブリッドのシボレー・ボルトはVolt)とハマーEVピックアップ(99台)を合わせて、457台。昨年比95%減と苦戦している(オートデータ社のデータより)。
GMにとっては、ホンダ車の人気と信頼性を取り込むことで、販売台数の増加が期待できる。ホンダはEV大量生産というスケールメリットを活かして、EVの大衆的価格(アフォーダブルな価格)を実現できる──つまり、両社にとってメリットは大きそうだ。
気になるのは、「販売開始が2027年」である。その時点で世界のEVシェアがどうなっているのか、中国の動向やテスラの勢いがどうなのかなど、不明な要素が多い。どれだけ魅力的なEVを作り出せるかが成功の鍵となるだろう。
なお、ホンダは4月25日、中国市場に投入する新型BEVを発表した。東風ホンダで扱うe:NS1と、広汽ホンダで販売するe:NP1である。予約は5月から予約がスタートする予定。ホンダは中国EV戦略として「2027年までに10車種のe:Nシリーズを投入」と発表したが、今回の2モデルはその第1弾である。