VW、プジョー、フィアット、ルノー、オペル......欧州でコンパクトEVのデビューが活発に。その背景と普及策の問題点

▲フィアットのピュアEV新型500e 写真のグレードはラ・プリマ(限定モデル)
▲フィアットのピュアEV新型500e 写真のグレードはラ・プリマ(限定モデル)

EV購入・利用の促進に手厚い優遇策が不可欠

欧州メーカーからコンパクトEV続々デビュー

 欧州でコンパクトクラスの電気自動車(EV)が続々と登場し始めた。EU(欧州連合)は2021年から、自動車メーカーの平均CO2(二酸化炭素)排出量を走行1km当たり95gに規制。規制が守れない場合はペナルティ(罰金)を科す。これを回避するため、各社は電動車の開発を進めていた。その成果として、グループPSA(プジョー/シトロエン/オペル/ボグソール)、FCA(フィアット・クライスラー)などが2020年モデルとしてEV販売を開始。また、VWはID.3の受注を6月から始めた。
 排出ガス規制に対応するために車両の電動化を急ピッチで進めてきた自動車業界だったが、今年になって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延という大打撃を受けた。自動車産業をバックアップするために、各国政府はECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=外部充電で走行できる車両。欧州ではこう呼ばれるようになった)への支援を行う方針を示し始めた。これがECV普及を後押ししそうだ。
 ACEA(欧州自動車工業会)によると、今年第1四半期(1〜3月)、EU15カ国およびEFTA(欧州自由貿易圏=アイスランド/ノルウェー/スイス)、英国の18カ国で販売されたBEV(バッテリー電気自動車)は12万7000台、前年同期比57%増だった。乗用車市場全体がCOVID-19に対応するための外出制限などで同27%減だったのに対し、BEVは好調だったのだ。また、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)も9万6000台が売れ、同120%増と好調だった。BEVとPHEVを合計したECVの販売台数は22万3400台に達した。
 商品投入も活発だ。ルノーはトゥインゴ、フィアットは500e、プジョーはe208、オペル/ボグソールはeコルサなど、小型乗用車にECVの選択肢が一気に増えた。ただし、販売価格は通常仕様の約2倍であり、e208のスタート価格は約3万ユーロ(約366万円)、フィアット500eのラ・プリマ(限定車)は約3万8000ユーロ(約463万円)と、2クラス上のモデルに匹敵する。

▲プジョーe208 2020年に日本でも発売予定のピュアEV 航続距離は約350㎞
▲プジョーe208 2020年に日本でも発売予定のピュアEV 航続距離は約350㎞

 1〜3月にECVが売れた理由を調べると、インターネット上で契約できるEC(Eコマース=電子商取引)対応のテスラが「販売店へ出かけないでも購入できる」という理由で歓迎されたことが挙げられる。また、すでに予算が成立している自治体や企業が導入するECVの納車が始まったことなど、特殊な事情も見られた。販売関係者からは「一般ユーザーの購入はそれほど多くないだろう」というコメントもある。
 とはいえ、スペインでは前年同期比43%増、ドイツは63%増、フランスは150%増、イギリスは200%増、イタリアは350%増という実績であり、商品の充実がECVの販売台数を押し上げるという点は確認された。2018年の新車販売台数に占めるECV比率はドイツ2.0%、フランス2.1%、イギリス2.5%、イタリア0.5%という数字だった。これに比べれば2020年第1四半期は大躍進である。問題は価格だ。同じサイズで装備がより充実しているエンジン車と比べて約2倍というECVの価格は、多くのユーザーにとっては受け入れにくい。
 実際のところ、ECVは「国や自治体がどれくらいの補助金を出してくれるか」が普及のカギになる。これは昨年の中国で補助金が大幅カットされた途端にECVが売れなくなった実態や、EUで最もECVが普及しているノルウェーが輸入税と付加価値税(合計で約30%)を免除し道路税半額、有料道路もフェリーも無料で、ラッシュ時にはバスレーンを走れるという手厚い優遇策を講じてやっとECVが売れるようになった、という事例から明らかだ。

▲VWが9月からデリバリーを予定しているID.3
▲VWが9月からデリバリーを予定しているID.3

 そこでEU委員会および各国政府は、ポスト・コロナの経済回復策の中でECV優遇策の実施を検討している。フランスのマクロン大統領は、自動車業界に20億ユーロ(約2440億円)を支援し、同時にECV関連の技術開発補助金10億ユーロ(約1220億円)の基金を創設する方針を指示した。また、個人のBEV購入に対して国が支払う補助金を現在の6000ユーロ(約73万円)から7000ユーロ(約85万円)へと引き上げる計画を決めた。
 ドイツは、メルケル首相が4万ユーロ以下のBEV購入者に対し、「国が6000ユーロ、地方自治体が3000ユーロ、合計9000ユーロ(約110万円)を支払う」と発表した。ただし、フランスが地方自治体などの補助金も合わせると1万2000ユーロ(約146万円)になるのに対し、ドイツは水準が低い。これはメルケル政権が「既存のエンジン車も大量に生産する自動車メーカーに配慮したためではないか」ともいわれている。
 コロナ後は、幅広い業種で失業者の増加や収入の減少が見込まれる。はたしてクルマが売れるかどうかは未知数である。また、自動車業界ではCO2規制に対応するため小型車のマイルドハイブリッド化や軽量化なども進める必要がある。こうした技術改革に伴い、コンパクトなA/Bセグメントの量販車が値上がりしている。これは新車需要にとってはマイナスの要素になる。
 EUのECV普及策は、ユーザーに受け入れられるだろうか。これはひとえに、コロナ収束後の欧州の景気動向にかかっている。

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