米国カリフォルニア州は9月の第1週に今年一番の熱波に襲われた。これにより電力供給が逼迫、州政府は計画停電の可能性にも言及し、州民に節電を呼びかけた。その中には「EVへの充電を控えてほしい」という要望も含まれていた。
カリフォルニア州では今年に入りベストセラーカーがテスラ・モデルY、モデル3となり、州の新車販売に占めるEVの割合が14%に到達した。全米のEV普及率はまだ6%程度だから、突出してEVの売れ行きが高いことになる。しかし電力が逼迫すると、電力不足が指摘され、今回のように充電も控えめに、という要望につながる。
ただし電力需要のピークは午後5時から8時の間で、多くの人々は夜間に自宅で充電を行うため、EVをそこまでやり玉に上げる必要が本当にあるのか、という点は疑問だ。今回の要望は主に昼間、自宅外での急速充電を対象にしたものと考えられる。EVの急速充電はかなりの高圧電力で行われるため、一斉に各地で急速充電器を使うと電力不足に拍車をかけることになるのだ。
電力の逼迫とEVの関係はカリフォルニアだけではなく、テキサス州でも話題となった。テキサスの場合は冬季に通常よりもひどい寒波が押し寄せ、一部地域が電力を止められる騒ぎになった。このときに話題になったのが、電力自由化の影響で電気料金が需要と供給のバランスによるものであったため、電気料金が跳ね上がった。ニュースによるとテスラ車を1回充電したときにかかる金額が、通常は20〜30ドル程度なのに、100ドル以上になったところもあった、という。
カリフォルニア州の場合は電気料金が急激に跳ね上がる、という心配はないものの、ピーク時の電力不足を警戒する計画停電はこれまでにもたびたび行われてきた。とくに今年は例年以上に気温が高く、春ごろから山火事が相次いだ。そのため送電線にダメージが出るケースもあって、電力不足が深刻になったのだ。
カリフォルニア州は電力源が急速に再エネにシフトしている、という点が無視できない。2021年の統計では、天然ガスが約50%、原子力が8.5%に対し、再エネは34.8%を占める。うちソーラーが17・1%、風力が7.8%だ。同州は2045年に再エネによる電力供給を100%にする、という目標を掲げている。
しかし現状ではソーラー電力が夜間に発電されない、など再エネの不安定さが電力の安定供給に影響を及ぼしている、という指摘もある。同州は重油による発電はゼロ、石炭も0.2%と極端に低く、天然ガスによる発電も段階的に廃止していく方針だ。
一方で春から夏にかけてはソーラーによる電力が100%となる日も多く、余剰電力を捨てざるを得ないケースも多い。つまり十分な発電量があるのに、それを活かしきれていないのが現状なのだ。
この点に関しては、各電力会社が対応を進めているが、まだ完全に実現していない。テスラはロサンゼルス、サンフランシスコに大規模蓄電施設を建設中であり、特にロサンゼルス近辺のものは40GWhというパワーを持つ。こうした蓄電設備が今後電力不足の際に緊急使用される天然ガスによるピーカー発電所に置き換わるものになる、と期待されている。またロサンゼルスのソーラー発電会社、8ミニッツも同様に蓄電システムの展開に意欲を見せている。 つまり蓄電施設が整えば、需要以上の発電を蓄え、電力不足に備えることができる。また計画停電の際にEVから家庭に電力を供給することで、不便なく生活できた、という報告も挙げられている。
2045年の再エネ発電100%に向けて着々と計画を進めているカリフォルニアだけに、今回のようなピーク時電力不足が起こると「ガス廃止、原発廃止は間違いだ」という批判が起きるが、実際には実現までのちょっとしたトラブル、という捉え方もできる。来年以降は大規模蓄電施設が次々に完成するため、再エネによるエネルギーをより無駄なく使えるようになるだろう。
一時的な電力不足からEV普及に見合うだけの電力供給が難しい、という結論を出す必要はない、といえる。