ダイハツ工業は軽商用車「ハイゼット」の発売60周年に伴い、ユーザーへの感謝の弁を述べるとともに、60周年を記念した専用サイトを公開した。
サイト内で紹介される、10世代に渡るハイゼットの車歴を見ていこう。
累計生産台数が約740万台にも上るハイゼットの歴史は、アメリカでジョン・F・ケネディが第35代大統領に就任したのと同時期の1960年11月にまで遡る。高度経済成長期の真っただ中、当時大ヒットしていた軽三輪自動車「ミゼット」に続き、ダイハツ初の軽四輪自動車として「ハイゼット(HIJET)」は市場に放たれた。高性能を意味する「HI」と、超小型を意味する「MIDGET」を組み合わせ、ミゼットに対してより高い性能を備えるクルマという意味を込めて命名されたハイゼットは、まず当時の軽自動車市場で高い人気を博していたトラックから発売。既存の軽四輪自動車のイメージを刷新する斬新なデザインに17psの最高出力を誇る356cc強制空冷2サイクル直列2気筒エンジン、高い積載性と居住性を確保したハイゼットは、たちまちユーザーから大注目を集める。翌’61年5月には、“ビジネスとレジャーを結ぶニューファミリーカー”を謳う「ハイゼット ライトバン」も登場。さらに、1962年10月には商品改良を行い、世界初のオイルマチック機構を採用した。
1964年4月になると、トラックのハイゼットの2代目が登場。車名は「ハイゼットキャブ」に刷新する。ボディは軽規格内で荷台をフルに使えるキャブオーバー(キャブ=運転席の床下にエンジンをレイアウトする構造)に変更し、キャビンの快適性も従来より引き上げた。一方、オーソドックスなモデルを希望するユーザーにも対処し、ボンネットタイプの初代モデルも併売する。そして、翌’65年11月にはバンタイプの「ハイゼットキャブ バン」を発売。当時のクラス最大の荷物室容積を確保し、幅広い用途に対応できる軽ライトバンとして人気を集めた。
1968年5月には、トラックとバンのハイゼットが同時に3代目に移行。斬新な“アクティブキュービックスタイル”のデザインや軽キャブオーバー車初の角型ヘッドライト、ワイド設計による快適な居住性、水冷2サイクルエンジン(356cc直列2気筒)の新採用などで脚光を浴びる。また、バンには独立懸架式のフロントサスペンションを組み込み、乗用車に匹敵する快適な乗り心地を実現した。そして、1970年開催の大阪万博では電気自動車に仕立てたバンが登場。会場内の遊覧用EVとして大活躍した。
1971年9月には、トラックが4代目へとモデルチェンジする。当時の自動車市場はクルマの多様化や高性能化が進み、道路の舗装化も急速に伸長していたため、新型ハイゼットもその状況に対応。スタイリングは曲線を取り入れた柔らかで上質なデザインに刷新し、合わせてイメージカラーにイエローを採用した。翌’72年2月にはバンが4代目に移行。同クラスで初めてスライド式リアドアを設定したことから、車名を「ハイゼット スライドバン」に変更する。また、このモデルでは急速充電システム付きの「クイックチャージ式電気自動車」を開発し、1976年開催の大阪国際見本市に出展した。
1977年4月になると、軽自動車の新規格に対応した第5世代の「ハイゼット55(ゴーゴー)ワイド」が市場デビューを果たし、6月にはバンも新規格に移行する。“軽の新星”のキャッチを冠した5代目は、ボディの大型化を図って居住性と安全性を高めるとともに、パワーユニットには新開発のAB型547cc水冷4サイクル直列2気筒OHCエンジン(28ps)を搭載。当時厳しさを増していた排出ガス規制にきっちりと対応した。
1981年4月には、ヘッドランプ上のターンシグナルが印象的な通称「“まゆげ”ハイゼット」の6代目に移行。トラックとバンともに端正なキュービックスタイルやパワフルな走り、快適な乗り心地などで好評を博す。また、トラックは1982年3月に四輪駆動の「4WDシリーズ」や農用仕様の「クライマー」を、1983年10月にキャビン部を拡大した「ジャンボ」を追加設定。一方、バンはファッショナブルな外観を有する乗用車感覚の新グレード「アトレー」を新規にラインアップした。
1986年5月には、新開発のEB型547cc水冷4サイクル直列3気筒OHCエンジン(30ps)を搭載した第7世代にモデルチェンジ。トラックはピックアップの略称である「ピック」を車名に加える。フラッシュサーフェイス化されたボディは、全体的に丸みを帯びたスタイリングに刷新。また、バンのアトレーにはガルウイングタイプのガラスルーフ「コスミックルーフ」を採用するなど、RV感覚の印象をいっそう強調した。そして、1990年3月になるとマイナーチェンジを図って軽自動車の新規格に移行。搭載エンジンはEF型659cc水冷4サイクル直列3気筒OHCエンジンに換装された。
1994年1月には8代目へとモデルチェンジするとともに、アトレーが独立する。トラックとバンともにホイールベースは100mm延長され(1900mm)、走行性能や居住性をアップ。また、1995年3月には福祉車両のシートリフトを、5月には電気自動車のピックEVを発売し、1996年1月にはDOHCヘッドを備えたEF型エンジン(EF-GS)仕様をラインアップに加える。そして、1997年10月にはユニークなフロントマスクを組み込んだ「iS」を設定した。
1999年1月には、前年の軽自動車の新規格移行に伴うモデルチェンジを実施して9代目に切り替わる。トラックは車名を「ハイゼット トラック」に変更し、フルキャブのスタイルを踏襲しながら新国内衝突安全基準をクリアしたトップクラスの安全性を実現。一方、バンは「ハイゼット カーゴ」へと車名を変え、イタリアの名デザイナーであるジョルジェット・ジウジアーロ率いるイタルデザインが造形を手がけたセミキャブスタイルへと刷新した。また、パワーユニットには新開発の“TOPAZ(トパーズ)”エンジンを搭載。環境性能と走行性能をいっそう向上させた。
2004年12月になると、カーゴが全面改良を実施して10代目に移行する。新工場であるダイハツ車体(現・ダイハツ九州)大分(中津)工場における最初の生産車種となった新型カーゴは、トラックとは別種の新プラットフォームにクラストップの2450mmのロングホイールベース、3リンク式のリアサスペンションなどを採用して走行性能を向上。また、よりスタイリッシュさを増したセミキャブスタイルに、居住性と積載性を高めた室内空間を内包し、バンとしての特性をよりレベルアップさせた。一方、トラックは従来と同様のフルキャブスタイルを継続しながら、衝突安全性や防錆性などをさらに強化。デザインのリファインや装備類の拡充なども実施した。
そして2014年9月には、トラックが約15年8カ月ぶりにモデルチェンジして10代目に切り替わる。積載性や使い勝手などを全面的に向上させるとともに、増加傾向の女性ユーザーに着目し、農林水産省の進める「農業女子プロジェクト」に参画。女性からの要望に応え、豊富なカラーバリエーションやバニティミラーなど、従来にはない装備を多数採用する。また、日常使いの増加や高齢者ユーザーの増加を受け、2018年5月の一部改良では予防安全機能「スマートアシスト」を新たに組み込んだ。
直近の2020年8月には、安全面でのさらなる強化を実施。ハイゼット トラックのスマートアシストⅢt装着車にバックソナーおよび後方誤発進抑制制御機能(後方誤発進抑制制御機能はAT車のみ設定)を標準装備し、またハイゼット トラック特装車に軽トラック特装車初となるスマートアシストⅢtを設定する。さらに、ハイゼット トラックとハイゼット カーゴの全車にオートライトを標準で採用した。
下町の路地から田畑のあぜ道まで様々な荷物を運び続け、また近年では働くクルマの枠を超えてレジャーや買い物などでも幅広く使われている、気軽な“相棒”のハイゼット・シリーズ。その進化の歩みは、まだまだ続いていきそうである。