2030年代にハイブリッド以外のガソリン車販売禁止!? 菅内閣が2050年カーボンニュートラル政策を推し進める理由

カーボンニュートラルとは、どんな状態を指すのか

▲トヨタが2020年に12月に発売する新型MIRAI
▲トヨタが2020年に12月に発売する新型MIRAI

 菅義偉総理大臣が「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指す」という方針を語った。

 カーボンニュートラルとは「人間や企業、社会の活動で人為的に発生する二酸化炭素(CO2)がプラスマイナス・ゼロである状態〟だ。2020年にEU(欧州連合)や中国、韓国も国家としてのカーボンニュートラルへの目標時期を宣言するようになった。菅総理の宣言も、こうした国際的な潮流に沿ったものだといえる。

▲MIRAIは水素を燃料として酸素と反応させて発電して走る燃料電池車(FCV)
▲MIRAIは水素を燃料として酸素と反応させて発電して走る燃料電池車(FCV)

 では、どうしたらカーボンニュートラルになるのか。わかりやすい例は水素を使う方法だ。クルマのガソリンエンジンを使って説明しよう。

 ガソリンは水素と炭素の化合物だ。水素の元素記号はH=ハイドロジェンであり、炭素はC=カーボンである。ガソリンエンジンは燃料の中のHとCを空気中の酸素=O(オクシジェンまたはオキシゲン)と高温で燃焼(化学反応)させ、そのときに発生するエネルギーを取り出してピストンを押し下げる。押し下げられたピストンの力でクランクシャフトを回し、燃焼エネルギーを回転運動に変換し、駆動力に使う。

 このとき、ガソリンの中のHとCが余らないで、全部がエネルギー反応を起こせるだけの酸素があれば理想的だ。それが理論空燃比と呼ばれる数値で、ガソリンは燃料1グラムに対して空気14.7グラムである。このバランスで燃やせば理想的にエネルギーを取り出せる。酸素が多いと、燃焼に使われなかった酸素が空気中のN(窒素)と結合してNO2(二酸化窒素)などに姿を変えるほか、燃えないで残った炭素と結び付いてCO(一酸化炭素)になったりする。COは毒性が強い。だからガソリン中のHとCを使い切るだけの酸素で十分なのである。

▲MIRAIは高圧水素タンクを写真の2本とトランク下に1本搭載 写真右側は上部が駆動用バッテリー/下部がモーター FCスタック(燃料電池)はフロントに搭載
▲MIRAIは高圧水素タンクを写真の2本とトランク下に1本搭載 写真右側は上部が駆動用バッテリー/下部がモーター FCスタック(燃料電池)はフロントに搭載

 しかし、エネルギーを発生した後の燃えカスのCはCO2になる。Hはほとんど燃えきってしまい、ごく微量がH2O(水)になったり、排ガス規制対象のHC(炭化水素)になるが、炭素はエネルギーを放出したあとで酸素と結合する。燃焼によって電子を放出しても原子核同士が残り、ひとつになる。

 ガソリンの代わりに水素だけを使うとどうなるか。かつてマツダとBMWは、水素を燃料として利用するエンジンの研究を続けていた。炭素成分を含まない純粋なHは、燃やしてもCO2を排出しない。水素燃料でエンジンが運転できればカーボンニュートラルになる。

▲マツダは水素エンジンの開発実績がある 写真のRX-8ハイドロジェンREは2009年にノルウェーに納車した
▲マツダは水素エンジンの開発実績がある 写真のRX-8ハイドロジェンREは2009年にノルウェーに納車した

 水素燃料の発展型として、水素と酸素の化学反応で発電する燃料電池車(FCEV)がある。トヨタはミライを市販し、ホンダはクラリティFCEVを個人ユーザーにもリースで提供中だ。

 水素を利用する場合、「どうやって水を作るか」が問題になる。

 たとえば、理科の実験で行う水の電気分解は、電力を使って水(H2O)をHとOに分ける。だから「分解」と呼ばれる。このとき、風力や太陽光などの自然エネルギー(再生可能エンルギー)を使って発電した電力を使えば、カーボンニュートラルになる。石炭や天然ガスのような炭素を含む燃料を燃やす火力発電で電気を作ると、カーボンニュートラルにはならない。

 風力発電、太陽光発電、太陽熱発電、地熱発電、水力発電、潮力発電といった「ものを燃やさない」発電が注目されている理由は、カーボンニュートラルになるからだ。では、ガソリンに代わる液体燃料を風力や太陽光発電だけの電力を使って作ることはできるだろうか。

▲アウディが展開するeフューエルの生産工場
▲アウディが展開するeフューエルの生産工場

 答えはイエス。これが、いま注目されているe(イー)フューエルである。空気中のCO2を集め、そこからCを分離してHと結合させる。この行程をすべて再生可能エネルギーでまかなえば、できた燃料はカーボンニュートラルになる。その燃料を燃やして排出されたCO2は再びeフューエルの原材料になるから、炭素は使わないという理論だ。

 バイオ燃料もカーボンニュートラル燃料である。植物はCO2を吸って育つ。その植物からアルコール系の成分を抽出したバイオフューエルは、たとえエンジンで燃やしてCO2を排出しても、それは「植物が育つために吸っていた分」であり、CO2の増加にはならない、という考え方である。

生産・使用・リサイクル、すべての段階で火力発電に頼らない社会を目指す

 一方、カーボンニュートラルの点で優等生といわれているBEV(バッテリー電気自動車)はどうか。火力発電をいっさい使わないで発電した電力をBEVに充電すれば、それはカーボンニュートラルといえる。ただし、リチウムイオン電池のような高性能電池の製造にも電力を使う。BEVを1台生産するとき、最も大量のエネルギーを使うのが電池生産だ。

 多くの研究機関の試算で、ガソリン車1台を作るときのエネルギー消費よりも、BEVを1台作るときのエネルギー消費のほうが多い実情がわかっている。BEVを完全にカーボンフリーにするには、電池製造のための電力をすべて再生可能エネルギーにする必要がある。

 カーボンニュートラルとは、何かの製品が製造される過程、その製品が世の中で使われる過程、そして役目を終えて解体処理される過程のすべてでCO2排出ゼロでなければならない。この技術はまだ世界に存在しない。多くの場合は使用段階だけのCO2排出量を見て「カーボンニュートラルだ」と判断されている。

 現在、日本にはグリーン購入法という法律があり、自治体や企業はなるべくCO2排出量の少ない製品を選ぶよう推奨されている。また、クルマには燃費規制が設定されており、この目標値も次第に高くなっている。こうした点では、日本も少しずつカーボンニュートラル社会へと動きつつあるといえる。

 世の中の活動すべてをカーボンニュートラルにするには、技術的ハードルはまだまだ高い。この状況は世界各国ともに共通だ。日本だけが遅れているのではない。また、欧州だけが進んでいるという状況でもない。だから技術革新が求められている。

 この分野に研究・開発のための資金が流れているのは、カーボンニュートラル技術が確実にビジネスになるためだ。世界中でファンドやコンサルティング企業が活発に動いている。最後はすべてビジネスに結び付いていく。

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