マツダは「Large(ラージ)商品群」向けに縦置きパワートレーン(FR用パワートレーン)を開発している。そのパワートレーン用に準備を進めるエンジンは6気筒だ。それも3種類を計画している。ガソリンとディーゼル、それに、ガソリン圧縮着火燃焼を点火プラグの火花で制御するSPCCI(火花点火制御圧縮着火燃焼)を採用したスカイアクティブXだ。
マツダはSmall(スモール)商品群(現在は第7世代)とLarge商品群(現在は第 6世代)にわけてクルマを開発している。ラージ商品群に分類されるのはマツダ6とCX-5、CX-8、CX-9(日本未発売)である。モデルチェンジのサイクルを考えると、縦置きパワートレーン初適用車種は次期CX-5だろうか。
マツダは以前から縦置きパワートレーンを開発中であることを公言していたが、2020年11月9日に行った「2021年3月期第2四半期 決算説明会〟で、ラージ商品群に関しては「この先2年の足場固め」について触れ、直列6気筒エンジンをベースにした縦置きパワートレーンを開発中だと発表した。
公開された写真には、6気筒ディーゼルと6気筒ガソリンが写っている。注目はガソリンエンジンで、排気側(右側)にターボチャージャーが1基搭載されているのがはっきりわかる。
写真の中央には4気筒自然吸気エンジンがトランスミッションと締結された状態で写っている。これはプラグインハイブリッドのパワートレーンで、モーターはエンジンとトランスミッションの間にある、いわゆるP2ハイブリッドであることがわかる。マツダはプラグインハイブリッドと48Vマイルドハイブリッドも、次期ラージ商品群のキー技術に据えている。ロータリーエンジン技術を活用したマルチ電動化技術も投入する予定だ。
ところで、なぜ6気筒、なぜ縦置きなのだろうか。理由は、マツダがプレミアムブランドへの脱却を図っているからだ。プレミアムブランドとして定着させるためには、商品力のアップが必要。そのためには、「6気筒」と「縦置き(FR)」という記号性は欠かせないと判断したのだろう。縦置きレイアウトで6気筒エンジンをラインアップに持つBMW5シリーズやメルセデス・ベンツEクラスと同じ土俵で戦うためである。
マツダは2019年に世界で156万1000台を販売した。世界シェアは2%だ。そのシェアを4%、6%と増やしていく気はマツダにはない。業界のスモールプレーヤーとしての誇りを持ち、将来にわたって2%を守り抜くのがマツダのスタンスだ。
そのためには、一部のユーザーに確実に歓迎される魅力的な商品(ブランド価値の向上)が必要だというのがマツダの判断で、それがプレミアム路線につながっている。
ラージ商品群の開発にあたっては、固定費と原価低減を進めて、商品の価格競争力を高めるという。そのためのアイデアのひとつが、「一括世代開発」だ。これは、ひとつの世代の商品群で利用する技術は最初にトータルで開発し、追加開発をしないという考え方である。また、生産現場では設備や技術の汎用化と、混流生産技術を高めて効率化を図る。販売段階においては、「正価販売・価値訴求販売」を通じて、ブランド力が損なわれないように配慮する。
現在のマツダは4気筒エンジンだけだが、6気筒にすれば排気量が増えるため、高出力化しやすい。 4気筒に比べて振動面でもプレミアム性の向上に有利だ。
組み合わせるトランスミションはATとMTが用意されるだろう。MTは現行横置きと同じ6速だとしても、ATは横置きと同じ6速では魅力不足だ。マツダはいたずらに変速段数を増やさないスタンスを貫いているが、プレミアムブランドとしての価値を高めるためには、8速はほしいところだ。エンジンと合わせて開発する自社開発のトランスミッションにも注目である。
FFの場合は前輪が操舵と駆動を兼ねるが、FRにすると前輪は操舵に集中できる。加速する際は重心が後ろに移動して、後輪の接地荷重が高まる。このため、動力を路面に伝えやすく、加速するときに有利だ。この特性は、コーナリングにも有利に働く。マツダは「人馬一体」や「走る歓び」を開発テーマに掲げている。FRパワートレーンがもたらす走りの特性は、これらのテーマと親和性が高い。ロードスターが好例だ。
また、マツダは「魂動デザイン」と称して統一性のあるエモーショナルなデザインを採用している。後ろ足で路面を蹴る力強さは、FFよりもFRのほうがエクステリアデザインに反映させやすい。これらを総合的に考えると、マツダが縦置きパワートレーンの開発に踏み切るのは自然な流れといっていいだろう。