テスラは2020年、全世界で49万9500台を販売。50万台の目標には届かなかったが、大躍進である。
2020年上半期のデータで見ると、アメリカでは8万7398台のEVが売れた。そのうちテスラのモデルが7万1375台で全体の実に82%弱を占めた。内訳はモデル3が3万8314台、モデルYが1万8861台、モデルXが9500台。シボレー・ボルトが8370台、日産リーフは3006台となっている。
多くのEVが市場に投入される中で、テスラの一人勝ち状態が続く理由は何か。それは、テスラ車はEV業界に大きな革命をもたらした、という点にある。携帯電話にアップルのiPhoneが登場したときに似ている。
テスラ登場以前のEVは、多くが非常に重く、デザインにも難があり、チャージには長時間が必要だった。しかしテスラはスタイリッシュで安全性が高く、急速充電(30分)にも対応している。そして走りは、非常にパワフルだ。
インテリアも斬新。モデルSは中央に大型のモニターを据え、ほぼすべての情報やコントロールをそこで行う仕様になっていたが、モデル3はさらに極端で、ダッシュボードは一枚のカウンターとなり、モニターがスピードメーターなども兼ねている。つまり、これまでのクルマの概念を覆すような、新しいドライビングエクスペリエンスを見せる。
たとえば日産リーフと比較すると、リーフのスタイリングは小型ハッチバック。バッテリーが重いEVをなるべく軽量化し、空気抵抗も抑える、という判断でこのデザインが選ばれたと思われる。
このタイプはコンパクトで街乗りには十分だが、トランクの容量が小さく、スポーティな要素にも欠ける。リーフの航続走行距離は150〜226マイル(約240~350km)に対し、モデル3は220~353マイル(約350~565km)とかなりの差がある。
大きく異なる点は、乗ったときの感想だろう。リーフは「ガソリン車をEVにコンバートした」というイメージが強い。インテリアや操作性など、ガソリン車の感覚のままで内燃機関をモーターに置き換えたようなイメージだ。モデル3の極端にシンプルなインテリアと比べると、「普通のクルマ」と感じる。
現在新しく発表されるEVは、テスラ と同じように中央に大きなモニターという車種が多い。ホンダeのようにダッシュボードの全面がモニターとなり、サイドミラーまでモニターを使用する、というアイデアも出てきた。これらはiPhoneの登場後、他の携帯メーカーが次々とタッチパネル方式のスマホに切り替えたのとよく似ている。テスラの存在がEVにおいてのスタンダードになってきた、といえるだろう。
テスラ車で特徴的なのは、パワフルなモーターを使ったクイックレスポンスだ。モデル3の0〜60mph(約96km/h)加速は3.1秒とかなり速い。一方リーフは公式な数値を出していないものの、ユーザー測定では8秒程度だ。
テスラの加速性能は、高速道路で車線変更をする際、追い越しをする際などにアクセルを踏み込むとぐっとスピードが出るのが実感できる。リーフの場合踏み込んでからややタイムラグがあってじんわりと加速する感覚だ。高速やワインディングを走る場合、この加速性能がファン・トゥ・ドライブに直結する。
現在は、テスラの一人勝ち状態だが、それも長くは続かない、という予測もある。他メーカーの追撃が厳しくなりつつあるからだ。iPhoneにしても一時期は世界シェアが25%近かったが、昨年は13%程度になっている。同様にテスラも現在の圧倒的なシェアが徐々に下がり、2030年には20%程度に落ち着く、という見方もある。
とはいえ、米国市場の20%は決して小さな数字ではない。さらに中国、欧州市場でも同様のシェアが続けば、2035年に多くの国や地域がガソリン・ディーゼル車の販売禁止を実施したときに、テスラが名実ともに世界一のメーカーになっている可能性もある。
2021年にはフォードが同社のイメージリーダーでもあるマスタングのEV、マッハEを投入するし、GMも人気車種ハマーEVを打ち出す。デザイン、そして価格面でも今後競争は激しくなるだろう。テスラのイーロン・マスク氏はかつて「EVが増えて競争が起きることはウェルカムだ」と語っていた。エントリーモデルのEV価格が 3万ドルを切るようになれば、EV化は一気に進むと思われるが、その先陣を切るのは、やはりテスラになるかもしれない。