テスラ社がヒト型ロボットを公開。開発の本当の狙いは何か?

2022年に発表されたテスラのヒト型ロボット「オプティマス」

2022年に発表されたテスラのヒト型ロボット「オプティマス」

 テスラ社CEOイーロン・マスク氏が以前から開発を伝えて来たテスラ製ロボット、通称テスラ・オプティマスの詳細を明らかにした。テスラボットとも呼ばれるオプティマスは、マスク氏が今年後半に発売予定だった同社のピックアップトラック、「サイバートラック」の発売時期を延期してでも注力したい、としていたものだ。

 8月に開催されたテスラAIデーに合わせ、スペックと実物のロボットが初めて公開された。それによると身長約173cm、体重約56.7kg、全身に40個の電子アクチュレーターを搭載しており、物を持ち上げる、運ぶなどの動作が出来る。

 なぜ発売が待ち望まれているサイバートラックを後回しにしてまでマスク氏はこのオプティマス開発にこだわったのか。

テスラ・サイバートラック

 まず、オプティマスにはテスラが持つAIや自動運転に関する先端技術が詰まっている、という点だ。オプティマスの「両目」に使用されているのはテスラのオートパイロットに搭載されているのと同じカメラ。また動作のトレーニングには同社が開発したスーパーコンピューター、DOJOが使われた。また動作にはマスク氏の人間の脳とコンピューターを直結させる技術を開発するニューラリンクの要素も含まれる。つまりテスラとその周辺企業が持つ最先端技術のショウケースとしてのロボット、とも言える。

テスラのコンピュータ「DOJO」

 当初マスク氏はオプティマスを「テスラの工場内での単純作業など、製造の補助的に使用する」としていたが、それだけのために巨額をかけてロボットを開発した、とは考えにくい。今後10〜20年でロボットの精度を徐々に上げていき、例えば高齢者の生活補助など社会のあらゆる場面で活躍できるものになる。

 マスク氏は発表の中で「このロボットはヒューマンフレンドリーなものになる」と言及し、その例として「買い物ができる」ことを挙げた。オプティマスは命令に従い、店舗に自分で出かけ、買い物リストに従った買い物を行い、内部に含まれたシステムで支払いまで行う。
「人間がこの先退屈な単純労働をする必要がなくなる」というのが狙いだという。

 しかしこのロボットが果たす役割として最も大きいと考えられるのが、マスク氏がかねてからこだわっている人類の火星への移住に関しての仕事である。最初のベースを作るための労働力として、このロボットは理想的な役割を果たす可能性がある。

イーロン・マスク氏

イーロン・マスク氏

 もうひとつのこだわりは、オプティマスが人間の体格に近く、軽量である、という点だ。歩行速度なども低く設定されている。この理由についてマスク氏は「人間が簡単に(オプティマスを)追い抜かすことができ、制圧することも可能なようにした」と語っている。つまりSF映画のようにロボットがスーパーパワーを持ち、人間を凌駕する、という事態をあえて避けているのだ。

 もちろんこの部分は設定により、変更は可能だろう。たとええば介護ロボットを想定すれば、体重が重い人に対してもサポートができるように「オプティマスが発揮できるパワー」を設定できるはずだ。しかし最初のモデルとして比較的非力にしたのは、ロボットが危険である、という考えを避けるためだろう。

2021年時点のテスラボット(Tesla Bot)。開発が進んでオプティマスに名称が変更

 そもそも自動運転機能を備えたEVというのはそれ事態がロボットだとも言える。なぜマスク氏はあえて人型ロボットを開発する必要があったのか。やはりテスラの今後の発展の方向性を考えた上で、交通だけではない、家庭内や他種企業での作業用など、広範な用途に対応するAI技術を備えていく必要がある、という意思の表明かもしれない。

 マスク氏は発表の中でTesla.com/AIにアクセスし、開発に参加してほしい、と呼びかけた。それにより様々なアイデアを取り込み、オープンソースに近い形でロボット技術を発展させよう、という考えだ。
 今後はオプティマスをデジタルツインとして活用する、などの使い方も出てくるだろう。どのような形にこのロボット技術が発展していくのかにも注目が集まりそうだ。

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