安定的な電力供給はEV普及のカギを握る
▲VWはゴルフeを発売するなど車両の電動化に積極的
エネルギー系シンクタンクのドイツのアゴラ・ヴェンデとイギリスのサンドバッグは2019年1月、EU(欧州連合)における発電方法別電力シェアを発表した。
それによると、2018年は風力、太陽光、バイオマスといった再生可能エネルギーで発電された電力が全体の32.3%となり、17年に比べて2%上昇した。国別で見ると、ドイツをはじめイギリス、フランスでは再生可能エネルギーのシェアが増え、ポーランド、チェコ、ルーマニアといった旧東欧圏ではクリーンエネルギー発電が進んでいない。経済と環境問題は密接にリンクしているといえる。
EUでの太陽光発電は昨年、合計で60ギガワットまで増え、全発電量の4%を占める。国別ではイタリア9%、ギリシャ8%、ドイツ7%が上位3カ国だ。アゴラ・ヴェンデは「22年までに太陽光の発電量は2倍になる」と予測している。
短期間で急激にシェアが拡大すると予測する理由は、太陽光発電モジュールの設備価格が下がったからだ。昨年は、設置コストが17年比で30%弱も下がった。猛暑だった昨年の夏は、太陽光発電にとっては追い風だった。
石炭の利用率は減少傾向にある。2018年は前年比8%減で、一時的に上昇した12年との比較では40%減である。EU内では、スペインとドイツが石炭発電を2030年代までに廃止する方針を打ち出しており、今後も発電への利用は減少すると見られている。一方、ポーランド、チェコ、ブルガリアなど、10年以降も石炭発電のシェアがほとんど変わっていない国もある。現在も重要な発電エネルギーという位置づけだ。
EU全体で見ると、こうした石炭=ハードコール利用が減少する一方で、水分など不純物の多い褐炭はなかなか減らない。18年は前年比3%減にとどまった。近年で褐炭発電シェアが最大になった2012年と比べても、昨年までの6年間で約10%しか減少していない。
とくにドイツは世界最大の褐炭産出国であり、発電への利用量を見ると、EU最大規模になる。石炭に比べて発電段階での二酸化炭素発生量は少ないというメリットはあるが、ドイツをはじめEU諸国では日常の基礎電力をかなりの比率で褐炭が支えている。
▲VWは2019年のオート上海で自動運転レベル4に対応した3列シートのSUV「ID.ROOMZZ」を発表した 2020年に発売する予定だという
現在、EUが掲げている二酸化炭素削減目標を達成するためには、発電分野での再生可能エネルギーのシェアを57%に高める必要がある。しかし、昨年のデータだけを見ると、発電コストは1メガワット当たりで45〜60ユーロ(約5650〜7530円)上昇した。その背景は石炭・褐炭と天然ガスの価格上昇だ。
今年の資源価格に関する予測は「昨年ほどは上昇しない」との見方が強い。そして太陽光発電設備のコストが下がった状況もあり、再生エネルギー発電のシェア上昇は期待されている。
とはいえ、現在のEU発電事情ではBEV(バッテリー充電式電気自動車)の大量普及は難しいといえる。ドイツを例に挙げても、電力需要の基礎は全体の10%以下を担う水力と、それよりもやや多いシェアの原子力とバイオマス発電のほかは褐炭発電が担っている。日中に電力需要が増加すると、天然ガス発電と石炭発電が動員され、天気がいい日には太陽光、風の強い日には風力発電が活躍し、運がよければ電力需要ピーク時の20%程度をまかなうことができる。
しかし、太陽光と風力は天候に左右される。安定的、計画的に太陽光発電や風力発電を運用するのは難しい。太陽光に依存して、大規模停電が発生すれば、国家的規模で損失を被りかねない。
ある試算では、原発凍結を決めたドイツでも、再生可能エネルギーがBEVの充電需要を完全にまかなえるようになるのは、2040年代後半だといわれている。