毎年1月、米国ラスベガス(アリゾナ州)で開催されるCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)ではスマートシティへの提案が毎年のように行われる。過去にはパナソニックによる米コロラド州デンバーのスマートシティ計画、トヨタのウーブンシティなど、多くの出展者が、アイデアを凝らした未来の都市計画を明らかにしている。
今年こうした提案を行ったのはタイヤメーカーのブリヂストンだった。タイヤとゴムのメーカーとしての立場からのユニークなインタラクティブシティ、ブリヂストン・ワールドが提示された。
ブリヂストン・ワールドとは、都市のさまざまな機能に対し、タイヤメーカーという立場からブリヂストンがどのような利便性を提供できるのかを具体的に示すものだ。たとえば今日の商用車と車両マネジメントに関する最大の問題を、タイヤ&ゴム製品をよりアクティブかつインテリジェントなものと位置付け、ユーザーの需要に応えるソリューションとして提供していけるか、という提案だ。
まず、エアフリータイヤ。決してパンクせず、空気を充填する必要のないタイヤだ。大型商用車用に開発が進められており、実現すれば現在タイヤが原因で作業が中断する時間を6割減らすことが可能になる、という。
また鉱山作業用のタイヤ、マスターコアはマイニングソリューションビジネスのコアとなる製品だ。同社の技術を用いて開発されたタイヤは、従来製品よりも荷重能力が15%、速度が10%、耐久性が5%増した、という。過酷な環境で作業する重量車のタイヤを改善することにより、作業効率をアップすることができる。
さらに、ブリヂストンが2019年に開発したSUSYM(サシム)という新しい素材も紹介された。ゴムのフレキシビリティと樹脂の強固さを併せ持つ素材で、この2つを分子レベルで融合させることにより、これまでになかった新しいポリマーを生み出した。これによりタイヤの強度が増すだけではなく、リサイクルも容易となり、環境に優しい製品になる。
こうした製品により、ブリヂストンが目指すのはタイヤ・セントリック・ソリューションと呼ばれるものだ。データと新しい技術を用いることにより、タイヤの運営管理をより単純に、効率よくすることができる。
代表的なものにインテリタイヤ、と呼ばれる技術がある。これはサブスクリプションベースの商用車に対するタイヤサービスだ。タイヤのパフォーマンス、安全度などがリアルタイムでチェックされ、必要なときに必要なサービスを迅速に提供できる。タイヤ圧、温度などがルーターを通じて自動的に送信され、問題があればユーザーにサービスが案内される。こうした情報提供を通じて、タイヤの問題による作業中断を大幅に減らすことができる。
タイヤメーカーの枠組みを超えた、モビリティ・ソリューションの提案もあった。たとえば安全性が何よりも重視される航空機において、ブリヂストンは独自のタイヤ摩耗予測を実施。航空機全体の状態チェック、フライトデータを組み合わせ、より安全な飛行、検査のスケジュールを行う。このように事前にチェックを実施することで飛行前後のトラブルを減らすことできる。
ウェブフリートという商用車の管理者を対象にしたテレマチックサービスも注目のシステム。ウェブフリートは世界で5万社以上が導入しており、トラックやデリバリー車両などの位置を常時特定でき、ナビゲーションによる最適ルートの選択、ドライバーの行動をモニターすることにより作業効率を上げ燃料費を削減するなど多くのメリットを提供している。
タイヤという非常にベーシックな商品を通じて、交通全体の流れを改善し、ユーザーに迅速なサービスを提供し、運輸全体の効率化を図っていこう、という提案だ。タイヤが未来の交通に大きく貢献できる可能性を示したものといえる。
もうひとつ重要な点は、新素材による耐久性に優れたタイヤの開発だ。今後EVが普及すると、ガソリン車より重量がかさむEVには専用タイヤを開発したほうがいいのではないか、ともいわれている。エアフリータイヤやインテリタイヤは、こうした需要に応える製品として注目を集めていくことになりそうだ。自動運転による商用車のオペレーションが行われるようになると、タイヤのトラブルを自動的に察知し、利用者に知らせるサービスへの期待は高まるだろう。
タイヤという縁の下の力持ち的な存在が、コネクテッドカーやスマートシティなどにおいて重要な役割を果たすことができる、ということをブリヂストンは提案した。クルマのデザインや機能に注目が集まりがちだが、こうしたベーシックな製品の発展・改善がクルマ社会の未来を支えている、ということがよく理解できる。