実はかなり進んでいたフォードの電動化戦略

▲欧州フォードのSマックス・ハイブリッド(2021年2月発表) 2.5リッターエンジンとモーターのシステム最大出力は190ps  リチウム電池(1.1kWh)搭載
▲欧州フォードのSマックス・ハイブリッド(2021年2月発表) 2.5リッターエンジンとモーターのシステム最大出力は190ps リチウム電池(1.1kWh)搭載

 世界の自動車メーカーの電動化への動きが加速している。ボルボは2030年までに完全な電気自動車メーカーになると宣言。ゼネラル・モーターズ(GM)は2035年までに「すべての乗用車をEV化」し、「SUVやピックアップトラックはEVか燃料電池車(FCEV)にすることを努力目標」として掲げた。フォードは「2030年までに欧州で発売する乗用車のすべてを電動化、商用車の3分の2をEVかPHEVにする」と発表している。

▲フォードEトランジット(2020年に発表されたEVバン) フォードは商用車の電動化にも積極的に取り組む
▲フォードEトランジット(2020年に発表されたEVバン) フォードは商用車の電動化にも積極的に取り組む

 フォードはもともとアメリカのメーカーの中では電動化に積極的で、2018年の時点で「今後アメリカ国内で発売する乗用車は、人気の2車種を除いてすべて電動化する」という方針を打ち出していた。
 しかし今回の欧州マーケットにおける電動化は「商用車のうち、少なくとも3分の2は電動化する」という一歩踏み込んだ内容だ。

 このためフォードは欧州工場への投資を増やし、全世界で脱炭素化に向けて220億ドルという巨額の投資を行う計画も明らかにしている。

▲フォード・マスタング・マッハE  販売がスタートした2021年2月に3739台が売れた 好調な滑り出しだ
▲フォード・マスタング・マッハE 販売がスタートした2021年2月に3739台が売れた 好調な滑り出しだ

 フォードは今年に入りマスタング・マッハEというEVモデルの発売を始めたが、この売れ行きが好調だ。オートモーティブ・ニュース社によると、今年2月のアメリカのEV販売は前年同月比で40%アップ、という数字を示した。乗用車全体の売れ行きは前年比で9.3%ダウンであるため、EVのシェアが広がっている。

 マッハEの販売がスタートした今年2月の販売実績は3739台。毎月この数字が続けば、年間の売り上げは5万台が視野に入る好調ぶりだ。マッハE発売の影響か、テスラのシェアは昨年の8割強から6割強に減少した。テスラの売り上げそのものが落ちている、というよりはEV購入の全体数が増える中で、新たに生まれた需要がマッハEに流れた、という傾向が見られる。

▲フォード・マスタング・マッハEのインテリア 
▲フォード・マスタング・マッハEのインテリア 

 なぜマッハEがこれほど人気なのか、といえば、やはりマスタングというブランド、そしてベース価格4万2000ドル、という価格設定だろう。アメリカ政府が行っているEV購入のインセンティブを含めるとマッハEの価格は3万5000ドル程度になる。これはライバルとなるテスラのモデルXと比べると2万ドル近く「お買い得」な数字となる。

 さらにアメリカのEVのほとんどがカリフォルニア州内で販売されているが、州が独自に行っているEVインセンティブでもフォードは有利だ。というのも州のインセンティブは最初の20万台に限られており、テスラはすでにこの枠を使い切っている。後発のフォードはまだまだこのインセンティブ枠が残っており、ユーザーにとってはさらに安く手に入れるチャンスなのだ。

▲フォード・エスケープ・プラグインハイブリッド(2020年モデル) EV走行は約59km可能 急速充電は約3.5時間で完了
▲フォード・エスケープ・プラグインハイブリッド(2020年モデル) EV走行は約59km可能 急速充電は約3.5時間で完了

 では、電動化に伴う問題点はあるのか、ないのか。現時点では、航続距離とバッテリーチャージが課題として浮かび上がってくる。最新のEVの多数は、航続距離が 200マイル(320km)以上になっており、日常での利用にはそれほど不便はない。またカリフォルニア州ではチャージステーションが約6800カ所、チャージアウトレットの数は2万8000以上となっている。州政府は新規に建設される集合住宅、商業施設、オフィスビルなどの駐車場にEVチャージステーションを設置することを義務付けており、少なくとも都市部ではチャージステーションを見つけるのに苦労する心配はない。

 ほとんどのホテル、大学、ショッピングモールなどでEVにチャージできる。料金は時間帯や電力価格と連動するため幅があるものの、1回のチャージで20ドル前後だ。チャージステーションに隣接する形でカフェなどを設置しているところも多く、利用者はそれほどストレスなくチャージが行えている。

▲シボレー・ボルトEV  2022年発売予定 価格は3万1995ドル〜
▲シボレー・ボルトEV 2022年発売予定 価格は3万1995ドル〜

 EVが増えれば電力消費が多くなり、石炭や火力発電が多い地域ではEVはエコではない、という意見もある。だが、カリフォルニア州の場合は2019年の時点でソーラーや風力による再生可能エネルギー発電が36%を占め、これに水力発電などを加えると全体の6割強がゼロCO2発電となっている。またカリフォルニア州は石炭発電を事実上禁止しており、残りはLPGガスによる発電がほとんどである。電力ポートフォリオとしてCO2発生量はアメリカの他の地域と比べると少ない。

▲シボレー・ボルトEUV  SUVテイストのニューモデル スタート価格は3万3995ドル 2022年発売予定
▲シボレー・ボルトEUV SUVテイストのニューモデル スタート価格は3万3995ドル 2022年発売予定

 ただしアメリカ全体で考えると、アメリカで年間に販売されるクルマのうち乗用車は半分以下だ。現在、人気があるのはピックアップトラックやSUV、小型バンなどのライトトラック系。これをいかに電動化していくかには課題も多い。

▲テスラ・サイバートラック 2021年後半に発売予定
▲テスラ・サイバートラック 2021年後半に発売予定

 GM、フォード双方にとって、ピックアップトラックはドル箱ともいえる商品だ。両社ともにピックアップのEVバージョン発売を予定しているが、それが競争力を持てるかどうかが焦点となる。とくに今年後半にはテスラのサイバートラックの販売が予定されており、予約数は60万台を超えている。リビアンのように主力商品をピックアップとSUVに絞った新興メーカーもあり、今後の電動化の中でこの分野でシェアを勝ち取ることがメーカーにとっては重要だ。

▲リビアンR1T  フォードは2019年にリビアンに5億ドルを投資した
▲リビアンR1T フォードは2019年にリビアンに5億ドルを投資した

 脱炭素、ゼロエミッションに向けて今後巨大メーカーと新興メーカーがそれぞれの生き残りをかけてさまざまな商品を開発し、戦略を展開していくことになる。これまでEVでは一強状態だったテスラも徐々に追い上げられている。
 フォードが欧州向けの乗用車をすべてEVにする計画を発表した戦略の影響は大きく、今後のアメリカ国内での販売方針にも反映されるだろう。

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