ホンダの「脱エンジン宣言」と、世界各国/各メーカーの電動化対応の現状

▲ホンダが上海モーターショー(4月)で発表したSUV・eプロトタイプ
▲ホンダが上海モーターショー(4月)で発表したSUV・eプロトタイプ

 ホンダの三部敏宏社長が4月に「2040年に全車種の電動化の方針」を打ち出して話題になっている。これは世界中で進んでいる脱炭素化、ガソリン内燃機関車の販売禁止、電動化のトレンドに沿ったもので、ホンダに先立ち全車種の電動化を打ち出したメーカーとしてはボルボ、GM、ジャガー、フォード(欧州向けを2030年から)などがある。

▲ホンダの三部敏宏社長は「2040年に全車種の電動化の方針」を明らかにした
▲ホンダの三部敏宏社長は「2040年に全車種の電動化の方針」を明らかにした

 そもそもガソリン車の新規販売を禁止する、という方針を最も早く打ち出したのは英国とフランスで、当初は「2040年から」という目標だった。フランスは現在も2040年をEV元年としているが、英国はその後目標を前倒しして、2030年にはすべて電動車(BEV、PHV、FCV、HV)とし、2035年には100%ZEV(BEV、PHV、FCV)とする目標を掲げた。

 2020年の新車販売(乗用車)のBEV比率が高いノルウェー(54.3%、ACEA発表データから算出)は2025年、オランダ(20.4%)は2030年からの内燃機関エンジン車の販売禁止とZEV=無公害車の100%販売を打ち出している。同じく2030年にZEV100%を目標としているのはデンマーク、アイスランド、アイルランド、イスラエル、スコットランド、シンガポール、スロバニア、スウェーデン、英国だ。

▲ジャガーIペイス ジャガーはBEVメーカーへの転換を宣言している
▲ジャガーIペイス ジャガーはBEVメーカーへの転換を宣言している

 日本と中国はそれぞれ2035年からの100%電動化を目指している。2040年を目標にしているのはフランス、カナダ、ポルトガル、スペインなど。ドイツはやや遅れて現在2050年が目標だ。

 ここで気になるのがアメリカだ。アメリカでは現在のところ、連邦政府としての内燃機関エンジンの販売禁止、電動化目標などを掲げていない。ただし州ごとではカリフォルニア州が2035年からの内燃機関エンジン販売禁止を掲げ、それに追随する形でニューヨーク、マサチューセッツ、コロラドなどの12の州も同様の目標を設定した。環境政策を前面に打ち出すバイデン政権になったため、早ければ今年中にも合衆国として2035年、という目標を掲げる可能性は高い。

▲メルセデス・ベンツEQS   メルセデスはEQシリーズの拡充で電動車市場の開拓を図る
▲メルセデス・ベンツEQS メルセデスはEQシリーズの拡充で電動車市場の開拓を図る

 注目したいのが、欧州各国の目標がZEV100%であるのに対し、英国、日本、中国は電動化100%としている、という点だ。この違いが何かというと、電動車はハイブリッド車を含むが、ZEVはハイブリッドを含まない点が異なる。一定の距離を排出ガスゼロで走行できるPHEVは、ZEVにカウントされる。

 各国が掲げる電動化政策に対応するために、自動車メーカーはどのようなプランを持っているのか。ドイツのメーカーを見ても、フォルクスワーゲンが2030年までに70のモデルを電動化。メルセデス・ベンツは2030年までに販売するクルマの50%以上をEVもしくはPHEVにする。BMWが2023年までに25車種のZEV、うち半数以上をEVとする、などGMやホンダと比べるとやや電動化に慎重な姿勢だ。

▲GMCハマーEVピックアップトラック 現在発売に向けて厳しいテスト走行を重ねている
▲GMCハマーEVピックアップトラック 現在発売に向けて厳しいテスト走行を重ねている

 これと比べると日本、中国、英国は2035年から販売するすべてクルマを電動化、という方針を打ち出しているのだから、ホンダの2040年のEV、FCV(燃料電池車)シフト宣言はむしろ遅すぎる、ようにも思える。だが、エンジンを搭載したクルマから撤退すると理解すれば、相当な覚悟と自信があっての社長発言だと理解できる。

 もちろん世界にはこうした規制を設けない国がまだまだあり、チャージステーションや電気インフラが整備されていないところも多いため、すぐにガソリン車の需要がなくなる、とはいえない面がある。世界中で販売を展開する自動車メーカーにとって、このあたりのバランスが今後難しくなるだろう。

▲GMがデトロイトに持つハムトラミック工場 BEV用工場への改修にともない「ファクトリー・ゼロ」(無事故、排出ガスゼロ、渋滞ゼロ)と命名された
▲GMがデトロイトに持つハムトラミック工場 BEV用工場への改修にともない「ファクトリー・ゼロ」(無事故、排出ガスゼロ、渋滞ゼロ)と命名された

 単にクルマだけの問題ではなく、ネットゼロ社会を打ち出す国も増えている。ネットゼロとは差し引きのCO2排出量がゼロになる、つまり工場などの排出ガス、発電など社会のすべてでCO2排出を極限まで減らす、という考え方だ。

 こちらに関してはスウェーデンが2045年、カナダやEU、ノルウェー、韓国、ニュージーランドなど8つの国や地域が2050年の実施を目指している。またアメリカでもカリフォルニア州は2021年から新規に建設される住宅、オフィスビルなどはネットゼロ建築を義務付けている。つまり太陽光発電などで電力を賄い、余剰電力を蓄電してEV充電などに充てる、などで建物としてのCO2排出をゼロにする、というものだ。

▲ボルボは「2030年までに完全なEVメーカーになる」方針を明らかにしている 写真はXC40リチャージP8・AWD
▲ボルボは「2030年までに完全なEVメーカーになる」方針を明らかにしている 写真はXC40リチャージP8・AWD

 ネットゼロ社会とはこれを社会全体に拡大し、再生可能エネルギーなどの利用、植樹などにより排出するCO2を打ち消すだけの酸素を全体で生み出す、というもの。

 現時点ではここまで厳しい脱炭素化を目指す国や地域は少ないが、今後発展途上国も含めて同様の目標を掲げるところがどんどん出てくるのは確実だ。クルマの電動化は世界全体での脱炭素を目指す始めの一歩、といえるかもしれない。

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