中国ではテスラ「モデルY」やNIO「ES8」などが起爆剤となったSUVタイプの高級EV市場では、ドイツ高級車御三家が相次いで新車を投入した。BMWはMスポーツのプロトタイプ新型EV、BMW「i4」を発表した。フロントバンパー左右のエアダクト、リアバンパー左右のグレーのインサート部分が大型化されている。
すでに、「e-tron」シリーズのEVを4モデルラインアップするアウディは、「コンセプトShanghai」を初公開し、2021年後半に発売する予定。ダイムラーが初公開したメルセデス・ベンツの新型EV「EQB」は、最大7人乗りの3列シートSUVで、年内に中国市場で販売する予定。
上海モーターショー開幕日の4月19日、テスラのブースで「ブレーキが効かない」とプリントされたTシャツを着た女性が、展示中のモデル3の上に立ちながら、「保有するモデル3の衝突事故を起こした原因はブレーキの問題だ」と訴える騒ぎがあった。翌日、テスラは速度超過が交通事故の原因だと主張し、顧客の不当な要求には妥協しないとSNS上で発表し、強気の姿勢を示した。
これについて国営新華社通信は、「テスラの傲慢な対応、誠実さに欠けている」と厳しく批判した。その後、テスラは謝罪し、管理体制を強化する姿勢を示した。実際、車両の発火、異常な加速、無線ソフトウェア・アップデートの失敗などの問題があるとして、国家市場監督管理総局が2月に中国法人に対し行政指導を行った。テスラ車の中国販売は一見好調に見えるものの、消費者対応、完成度の維持といった面では、依然課題を抱えている。
上海汽車(SAIC、出資比率51%)とGM(同44%)、五菱汽車(ウーリン、同5%)の合弁企業、上汽通用五菱汽車が投入した超小型EV「宏光MINI(ホングァンMINI)」は女性ユーザーを意識したモデル「Macaron」、オープンカーモデル「CABRIO」を発表した。品ぞろえを増やすことにより、ファンの獲得を急いでいる。
昨年7月に発売した宏光MINIは、20年の中国EV市場で、テスラの「モデル3」を抑えて販売台数1位となった。全長2.9m、全幅1.5mの同モデルは航続距離120~170kmに過ぎない短距離移動向けの小型EVだが、驚くのは2.8万元(約47万円)という衝撃的な価格だ。一般車両には手が届かず、安価・簡易な乗り物を「移動する足」にしてきた消費者にとって、低価格EVは新たな選択肢となった。
宏光MINIの好調が示すのは、中国EV市場の高級EVと廉価の小型EVの二極化である。
著者:湯進(タンジン) みずほ銀行法人推進部主任研究員、上海工程技術大学客員教授。2008年にみずほ銀行入行。自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、日系自動車関連の中国ビジネス支援を実施しながら、中国自動車業界の情報を継続的に新聞・経済誌などで発信。『2030 中国自動車強国への戦略』(日本経済新聞出版社、2019年)など著書多数(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)