コロナ禍で世界中のモーターショーが中止に追い込まれている。東京モーターショーもすでに今年は中止が決定した。その一方で、自動車メーカーの新型車や商品計画などの情報発信は、むしろコロナ禍前よりも活発になった。最新情報がネット配信できるためだ。
トヨタは6月、北米の報道機関を対象に近日登場予定の商品ラインアップを発表した。メインは北米市場の売れ筋商品になる、1トン積載型ピックアップトラック(PUT)のタコマ2022年モデルと、次世代SUVのデザインスタディのBZ4Xコンセプトだった。また、ASEAN(東南アジア諸国連合)で既発売の SUV、カローラ・クロスの北米市場投入も発表された。
北米での売れ筋はクロスオーバーも含めたSUVであり、全米の車種別販売台数では全体の68%程度がライト(軽量)トラックと呼ばれるカテゴリーで占められる。ミニバン、SUV、PUTはこの分類でカウントされる。4ドアセダンやハッチバックなどを対象とするカー(乗用車)の市場は年々縮小する傾向が20年以上続いている。つまり、北米ではライトトラック市場でのシェアが自動車メーカーの利益を大きく左右する。また、世界的に見ても大型商用車などを除いた車両重量3.5トン以下の自動車の中で、SUVは30%を超えている(2019年実績)。
カローラ・クロスは昨年7月にタイで発表されたモデルだ。カローラ・シリーズとしては初のSUVであり、タイのトヨタ・モーター・タイランド(TMT)で生産され、ASEAN地域向けに出荷されている。北米仕様はトヨタとマツダが米・アラバマ州に建設中の新工場で生産する予定で、ASEAN用(1.8リッター)と異なる2リッターエンジンのCVT仕様になる。
北米投入の理由は、コンパクトSUV商品の強化だ。現在、トヨタが北米で販売しているSUVで最も小さいモデルは全長4.4mを切るC-HRだが、その上は全長4.6mのRAV4になる。RAV4の上は旧ハイラックスの4ランナー、その上は全長5mクラスのハイランダー、ランドクルーザーであり、トヨタの北米販売店からは「マツダCX―5やメルセデス・ベンツGLAと同サイズのモデル」投入を望む声が多かった。カローラ・クロスは全長×全幅×全高4460×1826×1645mm。C-HRとRAV4の間を埋めるのにうってつけだ。
同時に、北米で始まっているライトトラック系のBEV(バッテリー電気自動車)化を受け、トヨタはbZ4Xコンセプトを披露した。2022年に北米投入予定車であり、前後軸に電動モーターを搭載するAWD(全輪駆動)の本格的電動SUVである。bZ(ビーズィー)はトヨタのBEVブランドとして新設されるシリーズで、その第1弾となるbZ4Xコンセプトは「2050年までにカーボンニュートラルを実現させるための戦略概要」とともに4月のオートシャンハイ(上海)で発表された。
このほか北米でも根強い人気のあるクーペ市場向けにGRスープラ、GR86が披露され、主力PUTのタコマの次期TRD仕様や、2022年モデルのトレイルエディションも発表された。全体的にはオートシャンハイでのプレゼンテーションに北米専用モデルを加えた内容だったが、興味深いのはスープラとGR86以外は日本で未発売/未発表という点だ。
日本市場では、軽自動車の人気が高い。機能が向上し、しかもスーパーハイトワゴンやSUVなどタイプが多彩になったからである。軽自動車のサイズが日本の道路環境に合っている点も好評の要因だ。欧米に対して日本は独特の市場であり、多くの国内メーカーで「日本市場では売らないクルマ」が増えている。従来、そうした海外市場の動向はあまり日本では報じられなかったが、ウェブが新車発表の場となったいま、海外市場の情報が身近になった。世界中に禍をもたらした新型コロナウィルスだが、クルマ情報のグローバル化という点では、いままでになかった状況を作り出している。