新型コロナウイルスの影響で2020年の中国の新車販売は前年を下回ったが、日本車は低燃費や信頼性などの優位性で人気を博しており、予想以上の好調を示している。
中国における日本車の販売台数は2020年に2年連続となる500万台超を達成した。
日本車の勢いがいつまで続くのか。裾野産業やサプライヤーを含む自動車業界から強い関心が寄せられてい
日本の自動車メーカーは、1980年代に地場企業に対する技術供与の形で中国事業をスタートした。中国政府は1994年に「中国自動車産業政策」を公布し、外資企業の中国での自動車生産を合弁形態でのみ可能とし、合弁相手は2社まで、出資比率は上限50%、といった制限を設けている(乗用車は20222年に規制を撤廃予定)。
スズキは1993年に長安汽車との合弁で小型車生産を開始した。1998年、ホンダと広州汽車の合弁による広州ホンダが誕生。これが日本自動車メーカーの本格的な対中進出の幕開けとなった。2003年には東風汽車との合弁で東風ホンダを立ち上げる。
トヨタは2003年に中国一汽との合弁で天津一汽トヨタを設立し、中国市場に大きな一歩を踏み出した。2004年には広州汽車との合弁で広汽トヨタを設立し、中国での2社合弁体制はようやく整えられた。日産は1993年に河南省鄭州で小型ピックアップ車生産の合弁事業を開始した。2003年には東風汽車との合弁で東風汽車有限公司を設立し、本格的中国展開をスタートした。
マツダは2005年に第一汽車との合弁で一汽マツダを設立し、2012年には長安汽車との合弁で長安マツダを立ち上げた。三菱自動車の中国事業は主に2012年に設立した広汽三菱(広州汽車との合弁)に集中している。
日系サプライヤーは、自動車メーカーに追随し、相次いで中国進出を果たした。日系自動車メーカーが立地する広州・天津・武漢、裾野関連が集積する上海・蘇州周辺地域が主な地域である。
日本自動車部品工業会の会員企業426社のうち、中国で533の生産法人、174の販売・統括・その他法人が展開されている(同会の2020年12月の調査)。こうした法人の販売先を見ると、現地の日本自動車メーカー向けは全体の69.2%となり、グローバル市場で最も高い比率である。
実際、一汽トヨタと東風ホンダに供給している部品メーカーは中国国内にそれぞれ427社、527社あり、東風日産は中国のサプライヤー450社から調達した部品を世界20カ国の日産自動車/ルノー/三菱自動車の生産拠点に供給している(2020年2月時点)。
2018年以降、日中関係が正常化に向かう中、日系自動車メーカー大手は中国を最重要市場に位置づけ、生産能力を倍増させる強気の計画を発表した。背景には、日系自動車メーカーによる積極的な新車投入や中国仕様車の開発などがある。これにより消費者ニーズにきめ細かく対応する市場戦略を打ち出し、着実に製品競争力を高めていく狙いがある。
日本車の中国乗用車市場シェアは2016年の15.6%から2020年の23.1%へと大きく上昇し、直近10年間で最も高い実績を示した。かつての競合ブランドである韓国系・米国系の低迷が好機となる一方、低燃費車戦略や兄弟車戦略が日本車好調の要因となる。
トヨタとホンダのハイブリッド車(HV)は現地生産によるコストダウンに取り組み、販売台数の増加を果たした。トヨタは2015年に現地で開発・生産した新型HVのカローラとレビンを市場に投入し、ホンダはSPORT HYBRID i-MMDを搭載するHVを強化し、その販売台数は2020年に20万台を記録した。
現在日系車は、中国ハイブリッド車市場(マイルドハイブリッドを除く)で9割超のシェアを占めている。
また、日系自動車メーカーは、これまでの車種別プラットフォーム生産から、車種の枠組みを越えた大規模な部品共通化戦略による生産に切り替えつつある。トヨタとホンダは、1つのプラットフォームをベースに内外装を変えることで、中国の合弁会社2社から新車をそれぞれ投入する兄弟車戦略を実施している。
トヨタのTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームを採用したセダン、カローラ(一汽トヨタ)とレビン(広汽トヨタ)、ホンダのグローバルミッドサイズプラットフォームを採用したアコード(広汽ホンダ)とインスパイア(東風ホンダ)など、両社ともにすでに多くのモデルで兄弟車をラインアップしている。
中国では日本車ファンを増やす環境が整ってきた一方で、日系自動車メーカーが価格競争力を意識しながら、兄弟車戦略でセダン、SUV両市場でモデル展開を拡大。消費者層の開拓を果たした。しかし、投入車種が少ないマツダと三菱自動車は販売に影響を受け、2020年の販売台数はそれぞれ5.8%減、43.6%減となった。またスズキは小型車販売不振により、2018年に中国から撤退を余儀なくされた。すなわち、製品戦略によって日系企業の明暗が分かれている。
日系自動車メーカーはこれまで中国においては、ガソリン車を主力に据えながら、電池性能やインフラ整備など不確実性の高いEV市場を慎重に見極めていく方針だった。今後は中国でのEV普及に伴う燃費規制とEV生産義務に対応するため、各社とも、中国で省エネ車を戦略の主軸に据えながら、EV市場の開拓に本腰を入れる方向だ。
タンジン/みずほ銀行法人推進部主任研究員、上海工程技術大学客員教授。2008年にみずほ銀行入行。自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、日系自動車関連の中国ビジネス支援を実施しながら、中国自動車業界の情報を継続的に新聞・経済誌などで発信。著書『中国のCASE革命、2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など多数(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)