トヨタは、カーボンニュートラルなモビリティ社会実現に向け開発中の「水素エンジン」を搭載した車両を、9月18日・19日に行われた「スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook 第5戦 SUZUKA S耐」(5時間レース)にて、「ORC ROOKIE Racing」車両として参戦した。第3戦・4戦に引き続き、トヨタの代表取締役社長である豊田章男が、ドライバー「モリゾウ」としてレースに挑んだ。
現在トヨタを主導に、水素エンジン車両のレース参戦を通じ、カーボンニュートラルに向けた水素社会実現を達成するために、「一緒にやろう」という意志と情熱をもつ仲間が業界を超えて集まり、共に様々なチャレンジを行っている。
富士スピードウェイでのレースでは、水素を「つかう」、オートポリスでのレースでは、「つくる」領域で選択肢を拡げることに挑戦してきた。今回の鈴鹿でのレースでは「はこぶ」をテーマに挑戦。
具体的には、川崎重工、岩谷産業、J-POWERの3社が連携して運ぶオーストラリア産の褐炭由来の水素を水素エンジン車両に使用。加えて、バイオ燃料トラックやFC小型トラックにより、国内で水素を運ぶ際に発生するCO2低減に取り組むことで、クリーンな水素社会の実現に向けてチャレンジしている。
レース車両については、アジャイルな開発により、さらなる改良を進めるとともに、開発現場には新たにコネクティッドシステムを導入し、車両開発に活用していく。
「富士SUPER TEC 24時間レース」に参戦以来、現場で行動することで多くの課題が見つかり、仲間と課題を解決しようとする動きが加速している。今回の取り組みで見えた課題の解決に向けて、今後も業界の枠を超えて幅広く連携していくとしている。
今回、「はこぶ」ことを通じて協力する川崎重工は、30年以上前にロケット燃料用水素貯蔵タンクを建造して以来、水素に関連する技術を磨いてきた。2016年には、岩谷産業やJ-POWERなどと技術研究組合、HySTRAを設立し、採掘量が多く安価に取得できるオーストラリアの褐炭から経済的に水素を作り、日本に運ぶ取り組みを計画している。
2021年度中には川崎重工の水素関連技術と造船技術を組み合わせて建造した世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」で、オーストラリアから日本に水素を運ぶ実証を行う。この実証は、「はこぶ」だけではなく、水素を液体にして「ためる」チャレンジでもあるという。また、2020年代半ばには一度に1万トンの水素を運ぶことが出来る大型の液化水素運搬船を建造し、2030年には本格的な商用サプライチェーンとして22万5千トンの水素を海外から運ぶ予定だ。
日本は2030年には約300万トン、2050年には約2,000万トンの水素導入を目指しており、導入量の拡大に伴い国内だけでなく、海外から大規模な水素調達を進めていく必要がある。
「スーパー耐久シリーズ2021 鈴鹿大会」では、海外からの水素調達の第一歩として、川崎重工、岩谷産業、J-POWERが試験的にオーストラリアから空輸で運んだ水素の一部を水素エンジン車両に供給。3社とトヨタは、この水素を実際にレースで使うことで、「はこぶ」と「つかう」の具体的な将来図を、現場での取り組みを通じて共有していく。
さらに2022年のスーパー耐久レースでは、「すいそふろんてぃあ」で運んだ水素を使用することを検討。2025年代半ばには、大型の液化水素運搬船が運ぶ水素をトヨタが使用することで、水素社会実現に向けた取り組みを進めていく予定だ。
今回は、オーストラリアから運ばれた褐炭由来の水素と、福島県浪江町(FH2R)で製造されたグリーン水素の2種類を水素エンジン車両に使用。オーストラリア産の水素は、「Commercial Japan Partnership Technologies」(以下、CJPT)のが取り組む小型FCトラックで、FH2Rの水素は、トヨタ輸送のバイオ燃料トラックで、それぞれ鈴鹿サーキットまで運搬。海外から「はこぶ」に加えて、国内で「はこぶ」領域でも選択肢を拡げることで、クリーンな水素社会の実現に貢献を目指す。
トヨタの「MIRAI」等に使用されている燃料電池(FC)が、水素を空気中の酸素と化学反応させて電気を発生させモーターを駆動させるのに対し、水素エンジンは、ガソリンエンジンから燃料供給系と噴射系を変更し、水素を燃焼させることで動力を発生させるものだ。ガソリンエンジンでも発生する、ごく微量のエンジンオイル燃焼分を除き、走行時にCO2は発生しない。
また、水素エンジンにおける水素の燃焼の速さは、ガソリンよりも速く、応答性が良いという特徴がある。
これまで水素エンジン車両は、「水素エンジン」の開発スピードを上げることを目的に「富士SUPER TEC 24時間レース」と「スーパー耐久レース in オートポリス」に参戦し、オートポリスでのレースからの約1ヶ月半で、車両の改良を進めてきた。
具体的には、出力をガソリンエンジンと同等のレベルまで向上。充填時間については、車両の両サイドから充填が出来るよう改良し、オートポリスでの約3分から約2分と、作業時間の短縮を実現している。また、開発現場で新たにコネクティッドシステムを導入し、より高精度のデータを大量に、高速で収集することが可能になった。
コネクティッド技術で開発を加速させるだけではなく、モータースポーツの厳しい環境下でコネクティッド技術を鍛え、この取り組みで得られた学びを今後のもっといいクルマづくりやサービス開発に生かしていきたいとトヨタは考えているようだ。今後の水素エンジンを使用したモータースポーツ活動と、水素社会を目指す同行に注目していきたい。