ラスベガスの新名所、とも呼ばれているのがイーロン・マスク氏のボーリング会社が作ったトンネルだ。元々2021年のCES(世界最大のテクノロジーショー)でのデビューを目指していたのだが、CESはコロナにより中止。その後21年後半に始動し、22年のCESで改めて注目を浴びた。
LVCC(ラスベガス・コンベンションセンター)ループというのが正式名称だが、多くの人がテスラループと呼ぶ。コンベンションセンターはウエスト、セントラル、サウスに分かれていて徒歩だとそれぞれの間が15分程度。それをトンネルで結び、テスラモデルYやXが人を乗せて移動するシステムだ。
コンベンションセンター利用者には無料で開放されており、コンベンションビジネスが街の大きな収入であるラスベガスのいわばサービスとも言える。
ラスベガス市はこのシステムが大いに気に入ったようで、昨年にはトンネル延伸の契約をボーリング社と結んだ。それによると空港から各カジノホテル、現在のコンベンションセンターまでを結ぶ市の大動脈となる交通機関として利用されることになる。
ラスベガス市には元々コンベンションセンターとMGMグランドホテルまでを結ぶモノレールがあったのだが、駅が少なくホテルの中をかなり移動しなければならない、などで利用者はそれほど多くなく赤字状態だった。そこで地下鉄などの導入も考えられたのだが、テスラループは地下鉄やモノレールよりもかなり安く、しかも工期が短い。
ボーリング社の手法は円形に掘削し、そこに予め作られたリングをはめ込んでいく、というものだ。そのため同社によると「通常のトンネル工事の10分の1の費用で済む」という。LVCCループ建設の総費用は5200万ドルだった。
当初はコンベンションセンター間だけを結んでいたループだが、2月にはラスベガス・ストリップにあるホテル、リゾートワールドまでの路線も開通した。これによりホテルからコンベンションセンターまでトンネルを通じて行くことが出来るようになった。このトンネルがどんどん延伸し、各ホテルと空港までを結ぶことになる。
現在の計画ではトンネルは全長34マイル(約55km)となり、駅は55カ所に及ぶ。トンネルはボーリング社が自費で建設するが、各ホテルなどが停車駅の敷地や費用などを負担する。多くは地上駅となり、移動は地下で一旦地上に上がって人が乗り降りする形となる。この方が建設費が安く済むためだ。
料金については距離性で空港からコンベンションセンターまで、最も長い距離を乗った場合12ドル程度、ホテル間などでは5ドル程度からの設定となる予定だという。
そしてこのトンネル、実は全米から引き合いが来ている。まずフロリダ州のマイアミがこのシステムの導入を決定し、昨年3月にはテキサス州サンアントニオが空港から市内を結ぶトンネル建設を市議会の多数決で可決した。このプロジェクトは総費用2億ドル以上になる、という。
ただし採算性については疑問も持たれている。現在トンネルを走るテスラ車にはそれぞれドライバーがいて、乗客は相乗りとなる。つまり1台につき最大で3人までしか乗車できない。そのためLVCCループは混雑する時間帯には行列が出来ており、マスク氏が約束した「1時間に5000人を輸送」には届いていない。
しかも維持するためには誘導の係員、ドライバーの雇用コストもかかる。トンネルシステムとテスラ車両はボーリング社が負担するものの、現在のLVCCループのような来場者サービスとして提供されるのならともかく、運賃を支払う場合ビジネスとして成立するのかどうかは未知数だ。
それでも「安くて速い」というキャッチフレーズに惹かれ、また将来は自動運転システムが導入されることへの期待もあり、今後も導入を決める自治体は増えそうだ。またマスク氏はより大きなトンネルを物流専門に作る、という計画も発表している。
アメリカでは中々高速鉄道システムが進まないことが問題になっているが、そのうちトンネルを自動運転のテスラが高速で走る長距離移動システムのようなものが完成し、鉄道を駆逐する日が来るかもしれない。