トヨタが中国で電動車に力を入れるのはなぜか

狙いは企業の平均燃費向上と、罰金回避

CH-R中国.jpg▲トヨタが中国で発売する電気自動車C-HR

 トヨタがBEX(バッテリー充電式の電気自動車)を10モデル以上投入──。

 4月に中国で開催されたオート上海(上海モーターショー)で、トヨタはC-HRとIZOA(イゾア)のBEVを発表した。IZOAは日本未発売だが、実はC-HRと同一車だ(販売は別チャンネル)。そしてトヨタは、「2020年代の前半にグローバル市場で10モデル以上のBEVを投入する予定である」とも明らかにした。トヨタはエンジンと電動モーターの複合動力であるHEV(ハイブリッド車)を含め、30年にはグローバルでの電動車販売台数を年間550万台以上にする計画だ。

 上海で発表されたC-HRとIZOAは、トヨタ・ブランドとしては中国初のBEVとなる。IZOAは第一汽車とトヨタの合弁会社、一汽トヨタ、C-HRは広州汽車とトヨタの合弁会社、広州トヨタがそれぞれ20年の「ある時期」から販売するという。トヨタは広州汽車傘下のトランプチ・ブランドからBEVを調達する方針を17年の広州モーターショーで明らかにしたが、その際「トヨタ独自のBEV投入は20年の予定」と語っていた。つまり、予定どおりだ。

IZOA中国.jpg▲一汽トヨタが販売するIZOA(C-HRのバッジエンジニアリングモデル)

 C-HRとIZOAのBEV仕様は、フロントマスクのデザインがガソリン車と異なる。電池搭載量や航続距離、電動モーターの出力など性能面のスペックは明らかにされていないが、リチウムイオン電池は中国製を搭載する。この両モデルが中国用BEVのベースモデルに選ばれた理由は、中国がSUVブームのまっただ中にあり、市場でのデザイン評価が高いからだろう。なお、昨年は中国で約1000万台のSUVが売れた。現在の中国は巨大SUV市場である。

 トヨタが公開した動画を見ると、フロントに電動モーターを横置きし、1段減速で使用する方式ではないか、と推測できる。モーター直後にインバーターやコントロールユニットが置かれ、リチウムイオン電池はキャビン内の床に5列、リアシート下に3列×2段で配置される。現行プリウスはリチウムイオン電池56セルを搭載するが、C-HR/IZOAは40セル程度のモジュールを11列、合計440セルほどを搭載すると思われる。

トヨタ中国舎.jpg▲トヨタのコンセプトカーRHOMBUS(ラムバス)

 また、トヨタはオート上海でBEVのコンセプトカー、RHOMBUS(ラムバス、ひし形の意味)を初披露した。1990年代生まれ(中国で〝チューリンホー〟と呼ばれるジェネレーション)以降の若者の価値観やライフスタイルに合ったBEVであり、中国の開発拠点、TMEC(トヨタ自動車研究開発センター中国)が担当した。座席配置は1/2/1であり、運転席と後席は車体中心線上にある。2列目シートは後席へのアクセスを考えて左右ドア方向に寄せられている。この座席レイアウトそのものはすでに他社がショーモデルで提案しているが、トヨタRHOMBUSの特徴は車名のとおり〝ひし形キャビン〟にある。一見奇抜だが、真横から見れば前後ともにオーバーハングが短いコンパクトカーだ。

ラムバス上空.jpg▲運転席が車両の中央にある 後席は変則的な配置の3シーター

 トヨタは今年3月、中国専用モデルのレビンとカローラのPHEV(プラグインハイブリッド車)を発売した。大都市で販売好調のアルファード、ヴェルファイアにもHEVを設定した。四川トヨタ汽車が製造するマイクロバス、コースターのFCEV(燃料電池電気自動車)仕様の実証実験も行われている。  こうした動きから、いよいよトヨタが、中国市場で「HEVを中心とした電動車の販売体制に入った」といえる。

 トヨタが中国での電動車販売に力を入れる背景には、政府が実施しているCAFE(コーポレート・アベレージ・フューエル・エフィシェンシー=企業別平均燃費)規制がある。中国というと、日本ではNEV(新エネルギー車=BEV/PHEV/FCEV)規制ばかり取り上げられるが、じつは日欧米と同じCAFE制度があり、メーカーごとに全販売モデルの燃費が計算され、これが政府の定める目標値をクリアできなかった場合には罰金が徴収される。NEVとCAFEの2重規制である。トヨタは、CAFE対応としてHEVによる企業燃費向上効果を狙っている。

 97年に1stプリウスを発売して以降、トヨタは今年2月末までに累計1300万台のHEVとFCEVを販売した。これによる燃費向上効果はCO2換算で1億トン以上の排出抑制に相当する。トヨタはこの実績のうえに、BEV効果を上乗せしようとしている。

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