新年早々に米国ラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)でソニーグループは、BEV(バッテリー電気自動車)事業を担当する新会社ソニーモビリティを今春に設立すると発表した。昨年のCESで披露したセダン型試作車VISION―Sに続き今回はSUVモデル、VISION―S02を発表、BEV事業への参入が近いことを印象付けた。
現地での記者会見でソニーグループの吉田憲一郎社長は「試作車への反響が大きかった」ことが事業化の理由のひとつだと語った。新会社を設立し事業化に向けた本格的な検討を開始するという。また、世界各地でBEVの新車が相次いで発表されている状況から「走行に必要なセンサー、5G通信、エンターテイメント技術と各種コンテンツを効果的に組み合わせる必要がある」「われわれは、こうした技術に広くかかわっており、モビリティを再定義するという点で好位置に付けている」とも語った。
ソニーグループの発表は、金融関係筋には好意的に迎えられた。「ソニーグループの半導体事業活性化に大いに期待できる」「広く日本のIT(情報通信)関連デバイスの注目増につながる」といった声が多く、ソニーグループの株価は発表翌日に上昇した。
CESに出品されたVISION―S02は、2年前に披露されたVISION―Sの改良版であるVISION―SS01とプラットフォームや駆動系を共有するモデルであり、デザインもよく似ている。ソニーグループが車両開発を委託したのはオーストリアのエンジニアリング企業であるマグナ・シュタイヤーであり、ソニーが示した車両コンセプトと設計思想を受けて実車の設計・開発および各種テストはマグナ・シュタイアが請け負っている。
マグナ・シュタイヤーとその親会社、マグナ・インターナショナルは、ジャガー・ランドローバーなどのBEVの商品企画・開発さらには製造までを請け負っており、この分野では高い経験値を持つ。ソニーは半導体やセンサーなどエレクトロニクス分野では豊富な経験を持つが、自動車を開発したキャリアはない。そこで、経験豊富なマグナをパートナーとして選んだ。
マグナ・シュタイヤーによると、ボディは衝突安全性能も含めてマグナの設計であり、「VISION―Sではボディ鋼板を独・ベンテラー(VWなどに納入)が供給し、必要な部品・ユニットはマグナ・インターナショナルのほかボッシュ/ZF/コンチネンタルの独大手3社、半導体は米・エヌヴィディアとクァルコム、それとソニー製が使われていた。
今回の「VISION―S02では、音声認識は米アマゾン・ドット・コムの音声人工知能(AI)、アレクサを採用し、ディスプレイや通信関係のユニットにはソニー製品が使われた。それ以外の部分にどの程度のソニー製デバイスが使われているかは不明だが、過去2年以上におよぶ開発作業の中でソニーは「温度変化や振動への対策、長期間にわたる信頼性の確保といった厳しい車載要件を満たすデバイスの開発が進んだ」としている。
以前、マグナ・シュタイヤーのフランク・クライン社長は、メディアに対し「VISION―Sの開発作業を「焦点はUI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザー・エクスペリエンス)とHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)であり、この領域でソニーの専門知識と開発アプローチを取り入れた」と語っている。そのひとつが360度サラウンドのカーオーディオであり、どの座席の乗員も同じ音像定位と音質で音楽が聴けるという。
映像については、CESの展示車では運転席から助手席までの横長ディスプレイで映画などを楽しめることがうたわれていたが、当然、ドライバーは映画鑑賞には参加できない。しかし、エンジンを積まないBEVは、車載バッテリーに貯めた電力を使うことで「どこででも停車中に映画や音楽を楽しめる」ため、今後は「家庭のリビングとは違った環境で、クルマの室内ならではの映像・音楽の楽しみ方を提供するサービスも有望」だ。
とはいえ、ソニーのBEV事業はまだ正式な「GO」ではなく、今後数カ月以内に誕生する新会社ソニーモビリティを中心に事業化検討が行われる段階だ。2020年のCESでは「現時点では市販の予定はない」とのコメントだったが、そこからは一歩前進した。事業化の方法が検討される。
最大の問題は「どこで生産するか」だが、マグナ・シュタイヤーはオーストリアに車両工場を持っている。ダイムラー・ベンツのゲレンデヴァーゲンは現在のマグナ・シュタイヤーの前身、シュタイヤー・ダイムラー・プフが生産してきた。マグナ・シュタイヤーはジャガーのEペイスなどを生産している。もしソニーがBEV事業化を決定した場合、生産をマグナ・シュタイヤーが請け負う可能性は非常に高いといえる。