ホンダとソニーグループは3月4日、「モビリティ分野での戦略的な提携に向けた協議・検討を進めることで合意した」と発表した。
年内に共同で新会社を設立してBEV(バッテリー電気自動車)の共同開発に着手し、2025年をめどに販売する方向を目指す。提携はBEVの共同開発というテーマだけにはとどまらず、モビリティ向けサービスの提供も事業化する計画である。
ホンダの三部敏宏社長とソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長CEOはそろって記者会見を行い、事業計画の方向を語った。
新会社は製造設備を持たず、企画、設計、開発、販売などを行う。車両を生産する場合はホンダの車両工場が担当する。
また、モビリティ向けサービスのプラットフォームはソニーが開発し新会社に提供する。この内容については明らかにされていないが、車内での音楽・映像再生やその配信が含まれるだろう。
今年1月に米国ラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)において、ソニーはダッシュボード横幅いっぱいのサイズのコクピットを披露し、そこに映像コンテンツを映し出していた。
今回の提携についてソニーグループの吉田CEOは「ソニーの事業目的はクリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たすことだ。
モビリティ空間を感動空間へというビジョンのもと、自動車業界で先進的な取り組みをしてきたホンダとの提携を通じ、セーフティ(安全)、エンターテインメント、アダプタビリティ(環境適合)という3領域を軸に、モビリティの進化に貢献したい」と語った。
セーフティという表現が入っている点から判断すると、ホンダが掲げている「2050年に全世界でホンダの2輪・4輪車がかかわる交通事故での死亡者ゼロを目指す」という目標へのサポートにソニーが関与する、ということだろう。
ホンダは5G通信を使ったインフラとの協調や、さまざまなセンサーを使ったドライバーの覚醒状態検知などを行う予定であり、ここにソニーのハードウェアとソフトウェアの技術が投入される可能性は大きい。
一方、ホンダの三部社長は「新会社は世界のモビリティの革新・進化・拡張をリードしていく存在を目指す。最先端の環境技術や安全に関する知見・技術の提供などを通じ、両社の持つ技術アセットを結集し、ユーザーの期待や想像を超えた価値創造を図る」と語った。
また「ホンダとソニーは歴史的・文化的にシンクロする点が大きい企業であり、得意とする技術領域は異なるが、設立される新会社には大いなる可能性はあると確信している」とも語った。
今回の提携についてホンダの三部社長は「ホンダからソニーに持ちかけた」という。
「若手社員の間での交流を通じて提携への機運が盛り上がった」経緯も三部社長は明らかにした。ホンダは昨年4月に「2040年までに世界で販売するすべての新型車をBEVまたはFCEVに切り替える」と発表し、ICE(燃焼エンジン)からは撤退するという意思表示を行った。
これはカーボンニュートラル(炭素均衡)に向けた動きだ。同時に交通事故死者数ゼロも掲げた。
この2つの目標を実現するための開発パートナーとして、ソニーを選んだという見方ができる。
記者会見でソニーの吉田社長が語った「セーフティ、エンターテインメント、アダプタビリティという3領域」が、おそらく新会社の主要事業になるのだろう。BEVについては「必須」とは語っていない。「利用者や環境に寄り添い、進化を続ける新しい時代のモビリティとサービスの実現を目指す」と表現した。
ソニーがオーストリアのマグナ・シュタイヤーに開発委託してきたソニーカー、VISION-Sは、すでに数台が試作され、数万kmにおよぶ走行実験が重ねられた。
「相当量のデータを蓄積し、車両の改良も進んだ」ことは、マグナ・シュタイヤー自身が語っている。同社の前身はシュタイヤー・ダイムラー・プフであり、メルセデスベンツ・ブランドのGシリーズなどの量産を手がけてきた。
ソニーが同社に市販版VISION-Sの量産を依頼すれば、おそらくマグナ・シュタイヤーは引き受けるだろう。
しかし、ソニーはホンダとのジョイントという道を選択した。ホンダとソニーが設立する新会社でBEVの企画・開発が行う場合は、間違いなくホンダの技術資産が活用されるはずだ。
ホンダは「新会社の商品はホンダ・ブランドを名乗らない」と明言したが、VISION-Sに使われたプラットフォームやモジュールの共有は、現実的な選択だ。
また、ソニーがホンダに提供するセーフティやエンターテインメントの技術は、必ずしも新会社の専用技術とは限らない。広くホンダ・ブランド車にも提供されると見るべきだろう。
ホンダとソニーの提携は、BEV分野を超えた包括的な内容になると考えるほうが自然だ。ホンダが実用化を目指している近距離エアコミューター、e-VTOL(垂直離着陸機)もそこに含まれるのではないだろうか。