創業118年という歴史を誇る自動車メーカー、米フォードが大胆な組織改革を発表した。フォードを2つの事業体に分け、それぞれフォードe、フォード・ブルーと名付け、前者はEVを専門とし、後者は内燃機関車を専門とする。
目的は「EVへの資本投下を明確にし、テスラに追いつき追い越す」というものだ。フォードはすでに乗用車では2つのモデルを除くすべてをEVにする計画を発表しており、独フォルクスワーゲンとEVで提携して共通のプラットホームで欧州でのEV販売に乗り出す、など積極的な動きを見せている。
フォードのEVは好調だ。マスタング・マッハEは、現在2種類のバージョンが人気加熱のため予約受付を停止している。プレミアムとカリフォルニア・ルート1と呼ばれる仕様で、それぞれエクステンデッドレンジ・バッテリーを搭載。
プレミアムは航続距離が303マイル(約485km)、カリフォルニアルート1は314マイル(約502km)。価格はプレミアムが 4万9100ドル(約565万円)、カリフォルニア・ルート1は5万2775ドル(約607万円)だ。
マッハEそのものはまだディーラーに在庫があるのだが、この2モデルの人気が突出しており、予約できない状況になっている。
同様にピックアップトラックのF150ライトニングも、すでに25万台の予約が入り、現在はネットでの予約を一時停止している状況だ。
フォードはメキシコ工場でのEV量産体制を整え、2023年には年間20万台、さらに設備を充実させ2026年には60万台、最終的には200万台のEV生産を目標としている。ただし今年に関しては世界的な半導体不足もあり、思うように生産が進んでいないのが現状だ。
今回のフォードの決断は、株式市場からは高く評価されている。EVはこれからの成長分野ではあるが、まだ独立するには脆弱である。EVの量産が進まない、などの要素でフォードそのものの株価が低く評価される可能性がある。
会社を分けることで、本体(ブルー)への評価が変わることなく、しかも安定した資本をe部門に投下できるようになる。
つまり、ガソリン車の販売が好調でもEV部門でのマイナス要因(半導体不足で車両開発が進まない、予定生産台数に届かない、あるいはバッテリーの発火事故が起きる)などで全体の株価が下がることを防止し、安定した状況下でEV開発が行える体制になる。
フォードのファーレイCEOによると、「独立事業体のメリットは2026年までにコストを30億ドル(約3450億円)カットできる」点だという。
オペレーションを分けることで、ガソリン車とEVの重複する事務作業などを整理し、会社全体のリストラクチャリングが、無駄な費用の削減につながるのだ。
今回の事業独立は、将来の完全な分社に向けたステップになる。フォードは「早ければ2024年にはフォードeを完全に分社化するのではないか」という見方もある。2年後には、フォードというEV企業がどれだけの台数を販売し、どれだけ成長しているのかが明確になるからだ。
つまり現時点では独立企業となるには弱いが、現在のマッハEやF150ライトニングへの人気がますます高まり、テスラに対抗できるほどの販売台数に達すれば、独立したEV企業として十分にやっていける、と考えられる。
そうなるとフォードeが主体となり、フォード・ブルーはトラックなどEV化が進みにくい車両や海外マーケットに対応したガソリン車を作る関連企業のような存在になるかもしれない。
米国ではカリフォルニア州がすでに2035年からの州内でのガソリン車の新規販売を禁止する法案を持っており、国全体がその方向に動いていくことは明らかなためだ。
フォードの大胆な動きは、自動車業界の潮流がEVに向かっていることを示すものでもある。EV専業となったフォードeが実績を伸ばせば、他社も同様の手法を取ることは十分考えられる。