テスラ車が急激に販売を増やし、フォードのベストセラートラック、F150のBEV、F150ライトニングの販売がスタートするなど、米国のEVマーケットが賑やかになってきた。そうした中で、EVスタートアップの中で、好調・不調の差が生まれつつある。
たとえば、テスラのライバルと目されるリビアンは株価が低迷している。5月9日には一日で株価が21%下落し、年初からの下落率は78%になった。これに連動してリビアンに投資しているフォードやアマゾンの株価も下がった。
株価下落の大きな要因は、同社の大株主、フォードが「800万株を売却する」と発表したことだ。フォードはリビアン社の株式を1億200万株所有しており、まだ大株主であることに変わりはないが、一気にこれだけの株を売却することがマイナス要因となった。
リビアンはR1S、R1TというSUV、ピックアップトラックのEVモデルが注目され、発売前から多くの予約を受けていた。またフォードとの提携でフォードのリンカーン・ブランドのEVに同社のEV用プラットホームを提供したり、アマゾンから10万台のEV配達バンの注文を受けたりと、期待が高かった。
しかしコロナによる世界的な物流の遅れや半導体などの部品不足により、製造は予定どおりには進んでいない。リビアンが今年製造を予定している台数は2万5000台だが、当初の予定では5万台だった。
製造の遅延はあっても、アマゾンはリビアンへの注文をキャンセルしていないが、並行してステランティス社にEVバンを発注した。フォードへのEVプラットホーム提供も延期になり、実現は難しくなっている、ともいわれている。
何よりも問題なのは、予約時に顧客に提供していた価格と実勢価格が大きく離れている、という点だ。
物価の高騰や原料不足により、どのメーカーも値上げを余儀なくされている。しかしリビアンの場合、R1Tが1万2000ドル、R1Sは1万4500ドルの値上げとなる。156万円から189万円ほど高くなるわけだから、これはユーザーにとって痛手だ。
このため一部の顧客が約束不履行で集団訴訟を起こす、と騒ぎ出した。これも株価に影響した。
同様に、ローニンと名付けられたスポーティEVのコンセプトを発表するなど、話題の多いフィスカーも苦戦しそうだ。同社では今年後半にSUVのオーシャンを発売予定だが、スケジュールは遅れぎみといわれている。
オーシャンの価格は4万ドルを切り、リースを利用すると月額料金は379ドル(約4万900円)と発表されているが、実現するかどうかは状況によりわからなくなっている。
一方で注目が集まるEVスタートアップもある。カリフォルニア州で生まれたカヌーだ。1基のプラットホームからライフスタイルビークル(ミニバン)、ピックアップ、キャンピングカーなどさまざまなタイプのクルマを開発する手法で話題になっているメーカーだ。
そしてカヌーは今年4月、NASAの火星探索車の製造を請け負うことになり、注目度がアップしている。カヌー社は探索車のイメージとして、ライフスタイルビークルをベースにしたイメージ図を公開した。
同じくカリフォルニア州のルシード・モーター社は高級スポーツタイプEV、エアの発売が始まり、高評価を受けている。価格帯は高い(7万7400ドル 商業用EVでも成功しそうなメーカーと厳しそうなメーカーの差が生まれつつある。
GMやフォードなどがピックアップ、商業バンのEV製造に乗り出すこともあり、スタートアップはさらに競争にさらされる状況を迎える。
自動車リサーチ会社、ワーズオートによると、運送会社のUPSと契約を結んだアライバル社は有望だが、ハブモーターというユニークな技術でアメリカの郵便局との契約を目指すワークホース社はその独自の技術への信頼性が定まっていないため期待値は低いという。
ピックアップトラックに特化したメーカーでも、ローズタウンは苦戦する、と見られている。一方で虚偽報告などでGMからの出資を見直されたニコラは、ユニークなビジネスプランにより評価が再浮上している。
もちろんこうした予想が必ずしも正しいとは限らないが、EVスタートアップに今後淘汰の時代がやって来ることは間違いない。テスラのように成功を納めるメーカーは少数派であり、今後はアメリカでもNIOやエクスペンといった中国メーカーへの注目が集まる可能性も指摘されている。ここに大手メーカーからの参入もあり、EV普及に向けた競争はますます進むだろう。