BEV電池の資源対策について。各国の諸事情と傾向

BEV電池の資源対策について。各国の諸事情と傾向

 BEV(バッテリー電気時自動車)のサプライチェーンは中国が握る。いま、日欧米の自動車産業はこの事実に直面している。中でも車載電池の主流になっているLIB(リチウムイオン2次電池)は、資源からセルまで中国企業のシェアが高い。“どうしても中国が関係してくる”という状況だ。

 昨年の車載用動力電池出荷量は、推計で約700GWh(1G=ギガ=10億)。このうち中国が全体の70%以上を占めるといわれる。また、中国汽車動力電池産業創新連盟のまとめによると、中国では昨年、180GWhのLIBが余剰在庫になったという。中国政府は「むやみな増産はしないように」と業界を指導しているが、その一方で設備支援のための補助金は継続している。

 米国の調査会社は「おそらく中国政府は、世界のLIB価格をさらに下落させることを狙っている。増産抑制は単なるポーズにすぎない」と指摘する。

 また、米国で昨年8月に成立したインフレ抑制法(IRA)にはBEVなどクリーンエネルギー車購入に対し最大7500㌦の税額控除を行う内容が盛り込まれているが、この支援を受けられる条件として部品の50%以上を米国・カナダ・メキシコで生産し、電池に使う重要鉱物は40%以上を友好国から輸入した車両でなければならない、となっている。

 IRAを素直に理解すれば、「中国製のバッテリーを搭載していたり、中国で産出した鉱物資源を使ったバッテリーなどを搭載していると、この税額控除の対象外になる」のである。

 このIRAの規定が、米国でのBEV生産に影響を与えかねない状況にある。自動車分野では久々に“利益の出る米企業”に成長したテスラは、日本経済新聞の試算によると「部品や資材の取引先1万3000社以上のうち中国企業が17%を占め、電池関連の調達では39%が中国企業からだ」という。

 さらに、マッキンゼー&カンパニーなどのデータによると、LIBの負極に使うメイン材料である黒鉛は80%以上、リチウムの精錬・加工は60%、正極に使うコバルト加工は65%を、それぞれ中国企業が占めている。LIBのセル部品は75%が中国製であり、LIBセルそのものの製造も75%が中国企業である。 つまり、現在のタイプのLIBを使い続ける限り、BEVでの中国支配は続く。

 米国はIRAで中国を排除しようとしているが、それでも中国のLIBメーカーの工場建設が一部で認められ、テスラは欧州工場で製造するBEVに中国製LIBを積む計画を明らかにしている。

 中国の支配はますます大きくなるかもしれない。必要不可欠な部品、資源を確保する重要性がよくわかる。

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