欧州自動車工業会(ACEA)は9月末、欧州委員会に対して「EU・英国通商・協力協定(TCA)により電気自動車のバッテリーに適用されている原産地規則の緩和措置に関して、現行の内容を3年間延長するよう」要請した。
これを簡単に説明すると、EV用バッテリーに関して2023年末と2026年末までの2段階に分けて、原産地規制が緩和されている。2023年末まで第1期間に当たる現在は、欧州で組み立てられたバッテリーの原産性が認められ、関税がかかっていない(特恵関税率0%)。だが、第2期間に当たる2026年末までの期間は、すべての部品と一部の原材料が欧州産であることが特恵関税率0%の条件になる。これが満たされていないと、完成車に輸入関税10%が発生する。
つまり、欧州で特恵関税率0%の適用を受けないBEVが英国に輸出される場合には、車両価格は一律10%アップする。英国はEUにとって最大の輸出国であり、2022年の実績で約110万台の完成車が輸出された。そのうち14万台がBEVだった。
関税で価格がアップするのは貿易上の約束事とはいえ、欧州マーケットでは中国製BEVの存在感が高まりつつある。ジェトロの発表によれば、2022年の英国BEVシェアの47%がEU製、32%が中国製だという。中国製BEVはこの時点ですでに10%の関税がかかっている。英国BEVマーケットで鎬を削るEUメーカーにとって、10%の関税は大問題だ。
一方で欧州委員会は、中国製BEVに標準税率(10%)以上の関税をかけるかどうかの調査を2023年9月に始めている。調査には最長13カ月をかけて慎重に行う予定だ。これは「中国製BEVが政府の補助金を受けて、欧州市場で安価に販売されているのではないか」と考えているからだ。調査対象にはルノーやテスラ。BMWなど、中国以外のメーカーも含まれる。
ところで、中国の自動車産業はどの程度の輸出台数なのか。世界最大の自動車輸出国は日本で381万台(2022年)。
中国の輸出台数は311万台で、日本に続く世界2位の規模である。中国政府が新エネルギー車(NEV)と位置付けるBEVとPHEVの輸出台数は68万台。
NEVの輸出先はベルギー、英国、フィリピンの順になっている。ベルギーはアントワープの港湾が陸上げ拠点になっている関係で、実質的にはEU域内で販売されていると見ていい。というのも、NEVの輸出額上位3マーケットはEU、英国、オーストラリアだからである。
つまり、中国は自動車輸出大国に成長し、BEV、PHEVの輸出先としてEU市場が大きな割合を占めているのである。日本のBYDを見てもわかるように、中国製NEVの価格競争力は侮れない。
EUがBEVに舵を切った背景に「欧州メーカーの伸長・拡大をサポートする」思惑があったとするなら、中国製NEVの急成長はまったくの誤算だったのかもしれない。
EUは英国との関税問題、中国車に対する標準税率問題をどのように対処していくのだろうか。