小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●2020年に向けていよいよドイツの猛烈電動化スタート!
いよいよドイツ勢のピュアEV攻勢が猛烈化してきました。
まだ日本未導入とはいえ2018年に国際試乗会が行われたアウディ初のピュアEV「e-tron」をはじめ、2019年9月のフランクフルトショーでデビューしたVW「ID.3」、その直前に発表されたポルシェ「タイカン」など、話題の完全電動車両、目白押し!
一方、それに対抗するべくメルセデス・ベンツが2019年7月4日に国内発表したのが「EQC」。
BMWの電動シリーズ「i」のようにメルセデスは電動シリーズを「EQ」と名付け、今回はそのCクラス車両だからEQCというわけです。
▲メルセデスの電動化シリーズはブランドネームに「EQ」を使用 市販化モデル第1弾が「EQC」
今後は「EQA」「EQE」「EQS」と増えていくんでしょうか? 小沢のテキトーな想像ですけど。
さて7月に発表され、年内は限定55台の特別仕様車「EQCエディション1886」のみが納車されるEQC。
今回2020年春から納車される普及バージョンの「EQC400 4MATIC」に都内でチョイ乗りできるというので、さっそく行ってきました。
●一見コンセプトカーテイストだが、骨格からはそこはかとなくGLCの匂い...
ショーでは見たけど路上では初めて見るEQC、まずは極端にエッジの取れた丸さが印象的です。
▲優雅なイメージのラウンディッシュなフォルムが新世代メルセデス・デザインの大きな特徴
とくにフロントマスクは、基本ハコのイメージが強いメルセデスを考えると異質。
さらに赤塚不二夫の目の玉つながり「レレレのオジサン」のようなヘッドライトが不思議で、これまたかなり未来的。
ついでにライト内部、ホイール、サイドのEQCエンブレムと露骨に電動化をイメージする水色が使われていて、ある意味コンセプトカーのよう。ちと市販車っぽくありません。
▲リアの抑揚も大きなRで構成 EQC400 4マチックの価格は1080万円
ただし、乗りこむとエクステリアとは違った印象が。
一部マテリアルは違うし、サイドエアコン吹き出し口のデザインなどはかなりフューチャリスティックなのですが、どこか懐かしい出来映え。
10.25インチの2つのディスプレイを一枚のガラスに封じ込めた超横長ディスプレイやセンターのタッチパネルはEQCオリジナルですが、ステアリングやパワーウィンドウスイッチなどは既存のガソリンSUV、「GLC」譲りなのです。
▲横長のメーターモニターを採用したインパネやエアコンルーバーが独特 EQC専用のデザイン
もちろん話題の「しゃべるメルセデス」ことMBUXは専用設計で、走行レンジ、充電状況、エネルギーフローなどを美しく表示してくれるのですが。
そのほか前後のシート関係やラゲッジレイアウトも正確には測れてませんが、GLCと共通の印象。
▲シートは意外にもオーソドックスな落ち着いたデザイン
▲リアシートも基本的にGLCと同様のイメージ
それもそのはず、おおよそのプラットフォームはGLC譲りで、基本的レイアウトはガソリン車とさしたる違いはないのです。
このあたり完全EVプラットフォームに移行したテスラやジャガーIペイスなどに比べ、ビミョーに守りの姿勢を感じます。
もちろん80kWhの巨大リチウムイオン電池をフロアに敷き詰めた構造、前後重量配分49:51の理想的レイアウト、前後ツインモーターで408psの最高出力、765Nmの最大トルクを発揮するところなどは本気も本気のピュアEVたる作りなのですが。
●ある意味安心、メルセデスらしさを優先した賢い守りの戦略
走行フィールも同様のイメージです。メチャクチャEVらしいというより、メチャクチャ静かで滑らかなよく出来たメルセデス。他にない新しさというより、徹底的にメルセデスの味を研ぎすませた電動車両というに相応しい。
発進は極めて静かで滑らか。敢えてEVらしい首にくるくらいのガツン!という加速はありませんし、極端にクイックなステアリング特性もありません。もちろんアクセルをベタ踏みしたら事情は変わりますが。
極端な話、Sクラスを越えるような静かさと、Sクラスに匹敵するメルセデスらしさがあるのです。
▲前後ツインモーターの最高出力は408ps 踏み込んだときの加速は強力だが安定している
それは動的スペックからもうかがえ、5.1秒の0-100km/h加速、2.5秒の0-60km/hは確かに素晴らしいですが、テスラ・モデルSのような2.7秒の0-100km/h加速のような極端なものはありません。
なにしろアチラは量産フェラーリに匹敵する麻薬に近い速さであります。
EQCは、やはりメルセデスの電動風味に特化しているのです。
ただし、これを小沢は単なる守りというより、賢い戦略だと考えました。
▲リチウムイオンバッテリー搭載 容量は80kwh 航続距離はWLTCモードで400㎞ GLCと同じ工場の同一ラインで生産される
いま、ドイツはVWグループを中心に「攻めたEV化」を進めていますが、これは相当なリスクです。
もちろん世界的なCO2削減ニーズは強力で、パリ協定からもうかがえるクルマの電動化への要求は非常に大きい。
しかし、EVは電池代が高く利益がでないうえ、ユーザーの全面的な支持はまだ得られてないのです。
ましてやメルセデスはプレミアムブランドとして世界的な支持を得ています。
まずは自らの顧客のなかから、リーズナブルにEVファンを増やしていく。
VWはたしかにおもしろくて野心的ですが、これはこれで正しい戦略ではないのでしょうか。