1983年にデビューしたホンダ・バラードスポーツCR-Xは、FFライトウエイトスポーツの代表的モデルとして、80年代の若いユーザーを熱狂させた。岡崎さんはバラードスポーツCR-Xをご子息のマイカーとして購入。このクルマで自動車人生を歩み始めたご子息が、いまはモータージャーナリストとして活躍する岡崎五朗さんである。
栃木研究所チューンで日本一のFFスポーツに変身
ホンダCR-X(1stモデルの正式名称はバラードスポーツCR-X)のデビューは1983年。3ドアHBクーペのルックスは若々しくダイナミックだった。
▲1st・CRーXはコンパクトさと軽量性を徹底追求 フロントフェンダーは樹脂製の「HPアロイ(ホンダ・ポリマー・アロイ)」を採用
ホンダは「FF初のライトウエイトスポーツ」と称したが、うなずけた。カッコよかったし、1.5リッター・4気筒の燃料噴射式エンジンは強力だった。
CR-Xが誕生した翌年、息子の五朗が18歳になり運転免許を取得した。そのときボクが彼のクルマ人生第1号車として選び、プレゼントしたのがCR-Xである。彼にも異論はなかった。いや、大喜びだった。
CR-Xは素のままでも十分に楽しかったし、速くもあった。でも、「もっと速くしたいなぁ」と、ボクは思い、こんなことはいまの時代ではルール違反だが、仲のよかったホンダのエンジニア、A氏に相談した。
A氏は間髪入れず答えを出してくれた。「栃木研究所で預かるよ。任せといて」、と。栃木研究所は本田技術開発の中枢であり、ホンダ車の聖地である。そんな場所で、個人車のチューニング作業をしてくれたのだ。もしかしたら、新人の研修材料の一助になったかもしれないが、何はさておき「すごいこと」に変わりはない。いまならあり得ない話だ。
ところがなぜか、その当時は、それほどすごいことと思った記憶がない。35年前は、まだまだのんびりした時代だったのだろう。
で、栃木から帰ってきたCR-Xがどんな変貌を遂げていたかというと......初めに気づいたのは滑らかさ。標準仕様でも滑らかなエンジンは、さらにさらに滑らかさを増していた。フットワークは、「凹凸をきれいになめるようなしなやかさ」を発揮した。そして同時に、しっかりした踏ん張りもあった。
どこをどうしたのか。パワーも上がっていたが、走り味にしても乗り味にしても、いちばん驚いたのは上質感だった。そのCR-Xは、間違いなく日本一のFFライトウエイトスポーツだった、と記憶している。
■主要諸元
グレード:1.5i(ルーフベンチレーション仕様)
価格:5MT/3AT 127万円
寸法・重量:全長×全幅×全高3675×1625×1290mm ホイールベース2200mm 車重800(3ATは825)kg
エンジン:1488cc直4OHC12V(110ps/5800rpm 13.8kgm/4500rpm)
サスペンション:フロント:ストラット/リア:車軸式
ブレーキ:フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ドラム
タイヤサイズ:5MT仕様は175/70SR13 3AT仕様は165/70SR13
駆動方式:FF
乗車定員:4名
▲バラードスポーツCR-Xはアナログメーター仕様(写真)とデジタルメーター仕様があった アナログメーターのほうが人気があった