小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』(写真右はトヨタ・ヤリスのチーフエンジニア、末沢泰謙氏)
●当初は割り切りの欧風コンパクトだった
2020年2月発売予定の新型トヨタ・ヤリスに乗ってきました。
といっても場所はクローズドサーキット、乗ったのはプロトタイプです。
▲コンパクトカーの世界基準を作ろうというコンセプトのもとに作り上げた低重心の新開発プラットフォームを採用
正直、荒れた道の乗り心地はわからないですが、おかげでトヨタがなぜ「ヴィッツ」の名前を捨てたのか実感できました。
ご存知「ヴィッツ」は日本で1999年にデビューした全長4m以下のコンパクトハッチ。一応、スターレットの後継ですが「21世紀のワールドコンパクトカー」を標榜し、ヨーロッパから飛び出してきたようなキュートデザインと、割り切ったシンプルな作りで人気を集めました。
インテリアなどにすごいお金がかかっている感じはありませんでしたが、卓越したデザイン力と高い環境&安全性能で補っている作り。デザイナーはギリシア人のソティリス・コヴォスさんで、さすがな造形ではありました。
ヴィッツは、2001年からはヤリスの名前で世界デビュー。ヨーロッパを中心に北米、中南米、アフリカでも売られて、2000年には「欧州カー・オブ・ザ・イヤー」まで受賞したわけです。
あれから20年、2020年に登場する4代目モデルから日本名「ヴィッツ」を捨て、世界的にヤリスの名前で統一するというのです。
なぜヴィッツを捨てちゃうの? 馴染みもあるのに? と思う人は多いはず。
調べてみると色々わかりました。まずはヴィッツが日本で2nd、3rdモデルとなるにつれて、かつてほどのシンプルさがなくなり、印象が薄れたこと。
さらに社内ライバルの台頭です。1stヴィッツは3.6m台でしたが、直近の3rdモデルは4.6m台と大型化してきましたし、なにより日本にはアクアが登場したのです。
アクアはヴィッツと共通のプラットフォームを使い、2011年に登場したハイブリッド専用コンパクトですが、日本では軒並み年間販売トップを記録。2019年も18年4月から19年4月までの年間で12万台超のランキング2位。8年目のクルマとしては正直ありえない人気です。
2020年からトヨタは全チャンネルで全トヨタ車を販売します。社内ライバルとの販売バトル激化は必至なわけで、そのための施策であり、イメージ一本化のためのヤリスへの変更なのです。
●スペース系への逆襲? 珍しい味の欧風コンパクト!
実際問題、肝心の4th(日本では1st?)ヤリスに乗りましたが、凝縮感がハンパではありません。
全長×全幅×全高は3940×1695×1500mmと、いまどき旧型より5mm短く、全高はアンテナの都合で一見不変ですが、実質30mm落ちています。
車内スペースはほぼ同等で、頭上は微妙に削られているところあり。割り切り度が増し、欧風コンパクトとしての原点に帰っているともいえます。
デザインでは盛り上がった前後フェンダー、切れ長のヘッドライトを始め塊感が凄い。アクアとはかなり異なる印象です。
インテリアに目を移すと、上級グレードは質感の高い2トーンパネルが使われていたりします。
▲グレード体系など詳細は未発表 上級グレードは2トーンの明るいイメージのインテリアを採用する
そして最大の特徴は走りへのこだわりです。
骨格に初めて新開発のBセグメント用TNGAプラットフォーム、GA-Bを採用。
結果、ハイブリッドモデルで約50kgの軽量化が図られている上、剛性感、しっとり感が段違い。
▲前席シートは大型で座り心地はしっかり 走行フィールは走り出しから静かでしっとり滑らか 新開発プラットフォームの高い実力が垣間見れる
走り出した瞬間から滑らかな乗り心地が印象的で、ステアリングフィールもしっとりと高級車のよう。
パワートレインは、ほぼ一新され、メインになるであろう1.5Lハイブリッドがとくに上質。
スペックは明らかになっていませんが、低回転から滑らかで力強いだけでなく、燃費で2割、パワーで1.5割増しとか。
乗ってみても結構な速さで、ハイブリッドシステムを一新したほか、1.5Lエンジンそのものも、吸気効率のいいダイナミックフォースエンジンへと進化。
▲新開発の1.5L直3ダイナミックフォースエンジンを搭載 欧州でも通用するように作り込まれたスポーティな走行性能と低燃費が魅力
これはハイブリッドなしの1.5Lエンジンも選べます、どちらも質感高し。
さらにいうと、先進安全もほかにない最先端が使われ、なかでも右折時の緊急停止機能は注目。
交差点で最も危ないのは右折であり、直進車と同時に歩道を走る歩行者への衝突が危惧されますが、どちらも同時にケアしているのです。
インフォテイメントシステムは新型カローラから導入したディスプレイオーディオを標準とし、その気になれば車内ナビを省き、スマホのシステムを使うことができます。これまたトヨタのベーシックカーとしては思い切ったデジタル化です。
▲ステアリングはチルト&テレスコピック機構付き 新型カローラ同様のディスプレイオーディオを標準装備 スマートフォンとの連携を強化
昨今のスペース系ばかりが売れるコンパクト業界としてはかなり思い入った「味の欧風コンパクト」。
正直、軽にしろ背高スーパーハイト系が日本の人気の頂点なわけで、もしや台数は追ってないのか? と一瞬思いますが、燃費は世界最高レベルで、実質30km/Lも狙えるかもしれません。
そうしたら最新のカローラ同様、予想外に売れてしまうのかも!?
今後の日本のコンパクトカーの基準を変える可能性あり! の注目のニューカマーなのです。
▲後席頭上スペースはミニマム 割り切った印象を受ける
▲後席足元はこぶし1個強で広くはないが大人が座れるスペースは確保されている
▲後席着座位置は高め 後席に座ったとき前席下への足入れスペースを備えて空間的余裕を拡大
▲上質で実用的なラゲッジスペースを備えている 後席は6対4分割可倒式を採用