小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●予約受注2万台超え!世界中で大人気のポルシェEV
世界カー・オブ・ザ・イヤーのLA試乗会で予想外のものに乗れてしまいました。
ポルシェ・タイカン! 同ブランド初のピュアEVであり、9月にアメリカ、中国、ドイツで同時発表され、11月20日には日本でも発表。
すでに世界で2万台以上の受注が入っているらしく、「EVのポルシェ」はクルマ好きから大注目。一方、デリバリーは正直遅れ気味で日本では2020年9月ごろという話。
▲タイカン・ターボに試乗 ターボは実際に付いていないがグレード名称として使用 ボディサイズは全長4963×全幅1966×全高1381㎜ ホイールベース2900㎜
予想される最大のネックは充電問題で、タイカンはその優れた動的パフォーマンスのみならず、通常400V程度で行われる充電を、800Vで行う異例の高電圧システムを採用。しかし電力システムは国によって規定が大きく異なり、簡単に新システムを導入できません。
その都合あっての遅れであり、発売時には現状の3倍の電力容量を持つ150kWの新世代チャデモ方式が導入されるとか。高性能EVはそれなりに未開拓なサポートシステムを必要とするのです。
▲充電口は手をかざすと自動的にオープン
とはいえタイカン、ぶっちゃけると小沢はそんなにすごいと思っていませんでした。
いや、ポルシェ的にはメチャクチャ速いんだろうけど現状プレミアムEV界で人気のテスラのモデルSやモデルXをそんなに簡単に抜けるかな? と。
アチラはクルマというより「走るスマホ的」な振る舞いや、超ビッグモニターで人気ですから。ズバリ、新しもの好きのアーリーアダプター向けで、そこにクルマクルマしているロックなポルシェがどうやって挑むのかと?
乗ってビックリ、想像とは全然違っていました。シンプルにメチャクチャ楽しい!
▲リアセクションはポルシェらしいフォルムでまとめている
予想外に超気持ちいい。単なるEV版ポルシェどころか、"EVだからこそ作れた理想のポルシェ"的な出来映えだったのです。そのデカいボディとはウラハラに。
●EVに対するポルシェの狙いが見えてきた
乗れたのは「ターボS」「ターボ」「4S」と3グレードあるウチの真ん中のタイカンターボです。
駆動システムはリアのみ2速ギア付きの前後ツインモーターで、システムパワー&トルクはターボSが761ps&1050Nm、ターボが680ps&850Nm、4Sが530ps&640Nm。
セカンドグレードでも680psあるから相当なパワー感。テスラ・モデルS P100Dの611psを越えています。
しかし0-100km/h加速を見ると、モデルSが2.7秒のところターボSは2.8秒、ターボは3.2秒と意外にも遅い。体感的にはほとんど変わらないだろうけど、スペックでポルシェが負けています。一瞬、それでいいの? と。
ちなみにボディサイズを見ると、全長4963×全幅1966mmはほぼモデルSと一緒ですが、全高1381mmはダントツで低く、なによりも見た目的にポルシェです。
前後が思いっきり平べったいスーパーカーデザイン。4灯LEDヘッドランプはタイカンがコンセプトカーとして出てきたときのイメージのまま。
車重は約2.3トンとそれなりで、一体ポルシェはこのデカい4ドアクーペで、どんな世界を与えたいのか? と思っていました。
ところがシートに座り、アクセルを踏んだら5mでビックリ。
超滑らかで気持ちいいんです。
▲走り始めてすぐにすばらしくスムーズで滑らかな動的資質が実感できる
そもそもポルシェは911だろうか、パナメーラだろうが、不快な唐突加速がないクルマですが、タイカンはそれをサラに研ぎすませたよう。
ぶっちゃけものすごくポルシェっぽい。それがさらに濃厚なんです。
さらにステアリングフィールにビックリ。これこそ実際に味わって頂くまで半信半疑だと思いますが、ポルシェっぽくナチュラルで剛性感もあるうえ、個人的には911より気持ちいい!
全長4.9m台、車重2.3トン前後なのに、やっかいな重さ、だるさはまったくなく、ポルシェらしくスムーズな味わいなのです。
室内もフロア下に93.4kWhの巨大電池が入ってるとは思えないほど、床が低く、大人4名が普通に座れます。
▲ダッシュボードもポルシェらしい造形で仕上げてある
▲メーターディスプレイは薄型で16.8㌅の大きさ 視認性は極めて良好
ハイテクシステムでテスラと比べると、タイカンも運転席前に16.8インチのメーターディスプレイ、センターに10.9インチのディプレイを持ち、かなりハイテックではあります。
しかし、テスラほどのスマホっぽさがあるかというと別で、半自動運転機能も持ちません。その土俵では勝負していないのです。
そのかわりに、4ドアセダンでありながらポルシェにしか出せない走り味をさらに研ぎすませて提供しているのです。フロント81リッター、リア366リッターの高い実用性ラゲッジスペースを持ちつつ。
▲366リッターの実用的なラゲッジ 左右端も広く確保してある
▲フロントフード下にも小物入れスペースを確保
以前、タイカンの電力システム担当エンジニアの オットマー・ビッシェ氏はいいました。「タイカンはテスラに勝てますか?」と聞いた時、決して競争相手ではないと前置きしつつ「ユーザーは本物のクルマが欲しいんじゃないか?」と。
タイカンは、もしやふた通りのユーザーをつかむかもしれないのです。
「新しいポルシェ」がほしいユーザーと、テスラなどに比べてもっと「本物のクルマ」がほしい人も。
唯一のネックは15万ドル(約1700万円)から始まる価格ですが、タイカンはプレミアムEV界の潮流を変えるのかも!? ちと楽しみになって来ました!