小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』 写真左は新型トヨタRAV4のチーフエンジニアを務めた佐伯禎一氏
●1000万円以上のクルマに10点って、どこに正義が?
難しい。選挙なるものは実に難しい。ひさびさにそう思わされた今回であります。それは不肖小沢も選考委員を務める日本カー・オブ・ザ・イヤーことCOTY!
クルマ好きのみなさんからは、あんなのどうせ提灯だろ!? とかテキトーにいわれますが、それはネットのタワゴトであり幻想。多少、大人の判断こそあれ、毎回ガチで悩みます。なにしろ読者に見られていますから。あまり適当な配点をすると痛い目に遭います。
実際、かつてバブルの頃、レーサー系の方が、伝統的な上出来スポーツカーに10点を入れず、オヤジセダンに10点を入れたことがありましたが、明らかなる違和感。そういう部分はやがて消え去るモノなのです。
とはいえ、COTYはわりと個人の価値観が反映されるもので、たとえば「価格観」。コレ結構てんでバラバラです。
今回はCOTYの予備選たる「10ベストカー」で、ダイハツ・タント、トヨタ・カローラ、トヨタRAV4、日産デイズ&三菱eK系の兄弟車、ホンダN-WGN、マツダ3、BMW3シリーズ、ジャガーI-PACE、ジープ・ラングラー、メルセデス・ベンツAクラスが選ばれました。
▲第40回を迎えた日本カー・オブ・ザ・イヤー 第一次選考会で残った10ベストカーは写真のモデル
スタート価格はざっくりタント124万円~、カローラ193万円~、RAV4 265万円~、デイズ129万円~、N-WGN129万円~、マツダ3・222万円~、3シリーズ461万円~、I-PACE976万円~、ラングラー490万円~、Aクラス334万円~、とかなり開きがあります。
小沢は個人的に価格が500万円以上して日本で年間1万台も売れないクルマに「日本COTY」はあり得ないと思っています。
どんなに質感、走り、カッコが良くても1000万円でひと握りのリッチにしか買えないクルマに「その年の日本を代表するクルマ」とはどうでしょう? 3000万円のフェラーリに日本COTYって絶対ヘンでしょう。どんなにカッコ良くても。
しかし、今回ほぼ1000万円のI-PACEに10点を入れた人が3名いました。なかには小沢が敬愛する方もおり、率直になぜ?と聞いたら「本当にいいクルマに値段は関係ない」と。一瞬、絶句しましたが、これはよくよく考えると一理あるのです。
たとえば、小沢も、現時点でソニーが世界に先駆けて「空飛ぶクルマ」を出したとして、それが2000万円で1000人しか買わなくても(絶対もっと売れると思いますが)10点入れちゃうと思います。気分的には15点入れたいくらいで、空飛ぶクルマぐらいぶっちぎりに先進的で、圧倒的な存在なら価格は関係ない。
しかしジャガーI-PACE、たしかにプラットフォームから完全新作で,出来もそうとういい。乗員がたくさん乗れる上、インターフェイスは先進的で、走りもEVならではの透き通った味。でもまだまだ一部のリッチマン向け趣味グルマだと思いました。
しかし、そこに意義を見出す人もいるわけですよ。もちろん牛丼オブ・ザ・イヤーを選ぶわけでもなし、COTYにコストパフォーマンスを意識せよという基準はありません。それくらいクルマ選びであり、賞選びであり、選挙は人それぞれなのです。
●トヨタRAV4の全方位的な強さ、一方マツダは
さておき、数多のウルサ型ジャーナリストの「いいクルマ基準」の最大公約数を取る戦い、今回はぶっちゃけ、トヨタRAV4とマツダ3の戦いに絞られました。
本来なら小沢的にはグローバル基準になり、同時に日本の基準もクリアした12代目カローラセダン&ワゴンを推したかったのですが、2018年にハッチバックのカローラ・スポーツが出てCOTYを取り損ねています。
▲トヨタ・カローラ・セダン&ツーリングは2019年に登場したクルマの中でとくに印象に残った1台
選考委員のなかには絶対「昨年も出たじゃん」という人がいるので、残念ながら死に点を出すのは無駄だろうと、個人の配点も止めました。
一方、RAV4は確かに当初売れないといわれたグローバルサイズのSUVで、3年前に一度日本マーケットから撤退した車種。
にもかかわらず今年4~9月で約4万台も売って販売ランキング13位。
▲アグレッシブな走りを見せるRAV4 グローバルで売れているとともに日本マーケットでも大人気となっている点が好評価を受けた印象
それどころか、デザインは海外では人気SUVで保守的チョイスもあったのに、独特のブルドッグみたいなワイルドマスク&ヘキサゴンデザインにチャレンジ。
乗れば新世代2.5リッターハイブリッドの走りと燃費がいいだけでなく、2リッターガソリン車だと260万円台のハイコストパフォーマンス。結果、この時代に20~30代ユーザーを獲得するという奇跡を生みました。よって評価は強かった。
▲2019 - 2020 日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したトヨタRAV4 チームの総合力は強力
しかし、小沢は個人的にはマツダ3に10点の最高点を入れ、RAV4は7点を入れました。それはマツダ3の、とくにハッチバックのデザインだけでも、その価値があると思ったからです。
▲小沢コージの配点はマツダ3が10点 トヨタRAV4には7点を入れた
いまどきコストパフォーマンスで世界一になっても新しくありません。しかし、美しさやカッコ良さで世界をリードしようと思った大衆車はなく、実際にマツダ3はそれを実現していると思ったのです。
ただし、結果を見ると得票はRAV4=436点、マツダ3=328点と100点以上の差が開き、マツダ3は3位の3シリーズに38点差まで詰め寄られていました。正直マツダ3の完敗!
▲トヨタRAV4の圧勝ともいうべき最終結果となった
そこには、かつての新世代マツダ車にはなかった欠点も見えます。具体的には2012年にCOTYを取った初代CX-5には新しい魂動デザインと同時に新世代ディーゼルがありましたが、今回のマツダ3、デザインはすごかったけど、期待の希薄燃焼エンジン、スカイアクティブXの導入が遅れている点と直近の販売台数。
現状マツダ3はXが12月から登場とされているからか、9月こそ7000台以上売りましたが、正直伸び悩んでいるのです。カッコと走りはいいのに。
▲10ベストカーの表彰のみに終わったマツダ3 流麗なフォルムと走りは高評価なのだが
つくづくクルマの評価であり賞取りレースは気まぐれ、かつ、総合力が求められるものなのです。
今後のマツダの奮起をぜひ期待したい! そして総合力のアップを!