小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●国関係はさておきクルマの実力は知っておこう
まさに近くて遠い国、韓国! 日韓関係がサイアクなのはご存じだと思いますが、それでもヒュンダイ&起亜ブランドを擁するヒュンダイグループの世界販売はとっくにホンダを抜いて世界5位。
2018通年はもちろん、2019年1?11月期でも、VW、日産ルノー三菱、トヨタ、GMに続く巨大グループを堅持。ここ数年は北米や中国を中心に奮いませんが、2019年第3クォーターは増収増益。台数は減っていても売れ筋車種の改善、ドル高ウォン安の波にのって、さほど悪くはないのです。
そんなヒュンダイ、世界では売れていても日本マーケットは数年前に乗用車撤退。実車の実力を日本人は知りません。そこで小沢は世界カー・オブ・ザ・イヤーのLA試乗会でまとめて乗ってきたので、ご報告いたしましょう。
まず、侮れないのはそのデザイン力、いやデザイン戦略といってもいいでしょう。
昨今、日本車のデザインは、良さとイマイチさが同居。魂動デザインのマツダやトヨタのグローバル戦略車RAV4は世界的に評判いいのですが、一部プリウスなどがいまひとつなように、どうも一貫性が足りません。
かたやヒュンダイ&起亜は非常に戦略的。
●韓国車のデザインはなぜ印象的なのか
戦略の一端がうかがえるのは、最初にLAで乗ったグローバルFFセダン、ソナタ! 北米で人気のトヨタ・カムリ、ホンダ・アコードの思いきりライバルで、8thモデルに進化して、かなりぶっ飛んでいます。
▲ヒュンダイ・ソナタは長い歴史を持ち8thモデルが2019年にデビュー 全長4900㎜のトヨタ・カムリクラスのクーペライクな4ドアセダン
いきなりアストンマーティン顔負けのワイルドフェイスに、前後のとろけるチーズのようなラインが印象的。
いざ乗ってみると、インテリアクオリティは極上でもなく、そこは日本人としては安心材料。それでも、かつて韓国車が持っていたチープさは一切なく、1.6リッターダウンサイジングエンジンは過不足ない加速感。
カムリとガチンコ勝負のハイブリッドに乗れなかったのは残念ですが、総合力とデザイン力は衝撃的。
走りや乗り心地、ステアリングフィールはほどほどで、カムリほどの剛性感はなく、極々平均的。
というのも、このクラスのセダンは、実はどこも台数が落ちており、SUVに移行しています。
とくにソナタは、カムリが北米で月2~3万台売れるのに対し、8000台と低迷。それもあってか、かなり大胆なトンガリ作戦に出ています。
一方、2019年に初登場した全長5mクラスの大型SUV、ヒュンダイ・パリセードと起亜テルライドの兄弟車は見事。
▲ヒュンダイ・パリセードは2018年リリースの3列シート大型SUV 全長4980㎜
カムリほどアグレッシブデザインではありませんが、三菱SUV的なホッペを寄せたようなワイルドさが印象的。
室内も3列シートで3列目まで広く、インテリアの質感もまあまあ。
▲パリセードの3列目はまずまずの広さを確保
乗り心地やハンドリングは非常にサルーン的で、逆にいうとトヨタ・ランクルのようなフレーム付きSUVの別モノ感はナシ。
3.8リッターのV6エンジンは、低回転からパワフルでLAの街中から高速まで十分走ります。
これが韓国本国では、ベースグレードで3622万ウォン(約363万円)から買えるのは相当なコストパフォーマンス。
V6だと、おそらく400万円台でしょうが、サイズと実力を考えるとそうとうお買い得です。
同時期に開かれたLAオートショーでは、兄弟車の起亜テルライドが「北アメリカ・ユーティリティ・ビークル・オブ・ザ・イヤー 2020」のファイナリスト3台の1台に選出されていました。
▲起亜テルライドは2019年リリース アメリカで生産する北米専用大型SUV 米国メディアから数多く受賞 全長5000㎜
▲起亜テルライドのインテリアは少し古さも感じるが質感はまあまあ
モデルラインアップのSUV化は順調に進んでいるし、しかも利益率の高い高額車が売れているのです。
具体的に直近19年11月は5000台レベル。ライバルたるマツダCX-9のほぼ倍です。
●露骨インスパイア系もあり、あの手この手で自在に攻める!
全長ほぼ4mのコンパクトSUV、ヒュンダイ・べニューは、露骨にフォルクスワーゲンTクロス似。
▲ヒュンダイ・べニューは2019年リリース 韓国とインドで生産する全長4036㎜の小型SUV
フロントグリルはもちろん、リアのクビレの似かたに驚きましたが、なんともインスパイア系デザイン、インパクト系デザイン、オリジナルデザインを上手に使い分けている印象。走りはこれまた可もなく不可もなく、非常に乗用車的。
▲ヒュンダイ・べニューのリアはVWにインスパイアされたデザインが印象的
日本では売れずにあきらめてしまった日産キューブやトヨタbBのようなボックス系コンパクトの起亜ソウルを自国やアメリカで、しつこく売り続けているのも印象的。
▲起亜ソウルEV 全長4195㎜のBOX型5ドアハッチバックはEVを追加設定
日本車は内製デザイン、オリジナル度にこだわりますが、ヒュンダイ&起亜はかつてアウディのチーフデザイナー、ペーター・シュライアーを引き抜いたことでも有名。
欧州デザインを上手に使っている印象があります。妙なプライドがないという意味では、日本メーカーより上手いのでは?
もっとも、日本車はかつてのコピー時代の反動なのかもしれませんが、現在の韓国のデザイン戦略の自由度は侮れません。
今後の自動車界はグローバルバトル時代に入っており、韓国ブランドに加え、中国ブランドの台頭もあり、どちらも日本にはなかなか上陸してこないので、危機感が実感できません。
気がついたら、世界は日本VS韓国VS中国のアジアメーカーのガチンコ対決になっていた!? とならないためにも、常日頃の勉強、情報アップデートが大切だと感じた次第です。クルマキムチも食べておきましょう(笑)