小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』(小沢コージの隣はトヨタ・グランエースのチーフエンジニア、石川択生氏)
●年販1000台以下、それはいままでにない新ジャンル高級車だから!
ちまたでは「すわ、アルファード&ヴェルファイア超えか?」といわれて、大注目のニッポンの新高級車、トヨタ・グランエースに公道で乗ってきました。
2019年の東京モーターショーで発表された巨大ミニバンですが、全長×全幅×全高は5.3×1.97×1.99mととんでもなくデカい。
▲トヨタ・グランエースとアルファードの比較 グランエースは全長5300×全幅1970×全高1990㎜ アルファードは全長4945×全幅1850×全高1950㎜ グランエースの圧倒的な大きさがよくわかる
ちなみにトヨタはグランエースをミニバンではなく、ワゴンと呼んでおり、理由は石川拓生チームエンジニアに聞いてわかりました。
それはグランエースが「そもそも人を送迎するクルマだから」。
実はミニバンの「バン」には「荷物車」の意味があります。
90年代のレガシィワゴンもそうでしたが、業務用の「バン」ではなく、より上質な人間用の「ワゴン」だといいたいのです。
それだけ質感に自信を持っている表れでもあります。
▲グランエースは2グレード構成 写真のプレミアムは3列シート仕様の上級グレード 価格:650万円
加えて不思議なのは販売目標の600台。
当初オザワは、ずいぶん控えめだなと思いましたが、よく見てさらにビックリ。
実は月間ではなく年間目標が600台!
月販わずか50台で、センチュリーと全く同じなのです。
▲グランエースのもう一つのグレード「G」は4列シート仕様 価格:620万円 外観上のプレミアムとの違いはリアのグレードエンブレムのみ
すると再び石川エンジニアはいいました。「アルファード、ヴェルファイアは7~8割が個人需要で、法人需要のエグゼクティブラウンジとなると1割程度です。グランエースはその上ですし、しかもいままでに例がない送迎専用の高級車ですから」。
とはいえオザワは思います。いまやアル・ヴェルは国内だけでも月間1万台は売れる人気車種。
その1割で月1000台ですから、グランエースもその半分は行くだろうと。
▲室内長3290×室内幅1735×室内高1290㎜ できるだけスクエアなフォルムで室内空間を最大化したことがわかる
事実、受注はすでに950台を越えており、予想以上の人気。
当初は年間2000~3000台はもちろん、それ以上行くような気がします。
●レクサス版が出てもおかしくない予想以上の全域上質さ
今回、試乗したのは2グレード。
当初から伝えられている8名乗り4列シートで620万円の「G」と、よりゴージャスな6名乗り3列シートで650万円の「プレミアム」です。
▲4列シート仕様のGグレードの3列目と4列目はオットマン未装備
まず気になるシートの座り心地ですが、「G」の2列目はアル・ヴェルのエグゼクティブラウンジでお馴染みのエグゼクティブパワーシート。足を投げだせるオットマン機能も付いていて、もちろん極楽です。
3列目はそこから少し小さめでマニュアル操作の独立シート、4列目は座面がハネ上がるチップアップシートですが、4列目でもミニバンのノア・ヴォクシーの3列目ぐらいの座り心地です。とくに本革仕様による座面のソフトさが違います。
また前後4列にすべて成人男子が座ってもさほど窮屈でないのにもビックリしました。もちろん、その状態では2列目でオットマン機能を楽しむことはできませんが、キチキチに8人乗っても狭くはないのです。
一方、3列シートの「プレミアム」は予想どおりのスペースと座り心地。
▲3列シート仕様のプレミアムの2列目と3列目にはオットマンを装備して豪華な仕立て
▲3列シート仕様のプレミアムは3列目もゴージャスな雰囲気
リア後端のラゲッジスペースを潰せば2&3列目で大人4名全員がオットマンを楽しむ空間が生まれますし、ラゲッジに大型トランクを4個積んでも、ヒザ前にはそれなりに余裕があります。
プレミアムなら、運転席&助手席を含めて大人6名が東京~大阪間を快適に移動できるはずです。飛行機が嫌いなお金持ちにピッタリでは?
▲3列シート仕様のラゲッジは4個のスーツケースが余裕で積載可能
●ハイエースとはまったく別モノの重厚感と乗り心地
さらに根本的にビックリしたのは全体の圧倒的な質感と剛性感です。
新型グランエースは海外用の新型300系ハイエースと共通プラットフォームを使っており、漠然と「ハイエースの延長なのか」と勘違いしている部分がありました。
300系は国内ハイエースのフルキャブオーバーレイアウトとは違い、短いノーズを持つセミキャブオーバーレイアウトです。
結果、ウルサくて熱いエンジンを、シート下に搭載する必要がなくなり、乗り心地もノイズも高級車並みにできるのです。
▲4列シート仕様のGのダッシュボード 目線が高く見晴らしがいい Gとプレミアムの違いは後席で前席は基本的に同一
セミキャブはリア駆動のため、ドライブシャフト分フロアが厚くなり、車重も嵩みますが、その分剛性や乗り心地は有利。グランエースにはその良さがモロに反映されているのです。
運転席は高めですが、エンジンをかけてもウルサいノイズや振動はほぼ入りません。エンジンは2.7トン台の車重を考えて2.7リッターのディーゼルターボ一本。
ピークパワーは177psですがピークトルクは450Nmと極太。驚くほどボディを滑らかに加速させます。
乗り心地は4列目こそ多少上下振動が入りますが、2~3列目は超快適。
運転してもステアリングフィールがしっとり、頼りがいあるのにビックリ。
こんな巨体が、極端な話、クラウンぐらいの質感で走るのです。厳密にボディはセダンより歪んでいるはずですが。
▲3列シート仕様のプレミアムの運転席 走行フィールは上質で完成度が高い
オマケに燃費は厳しいWLTCモードで10km/Lを記録。これがガソリンエンジンなら平気で6km/Lぐらいになるはずです。
正直、オザワはグランエースに乗って高級車の概念が変わりました。石川エンジニアはまだまだ進化させるし、このプラットフォームでいろいろやっていくといっていました。
そう、グランエースの最大の欠点は、やはりビジネスライクにふり過ぎたボディデザインで、見た目のバスっぽさは否めません。
▲4列シート仕様のG サイドはキャラクターラインを駆使しているが平面的でバスっぽさも感じる
ここでもっとセクシーデザインのレクサス超高級ミニバンを作れば、アセアンはもちろん中国あたりで大人気になると思うのです。
ついでに価格。これだけ巨大で上質な移動空間が600万円台はある意味安い。
アルファードのエグゼクティブラウンジは700万円超え。それと同等のボックスシートが倍の4脚ついてグランエースは650万円。
見ようによっては確実にお買い得なのです。つくづくオザワはグランエースの快進撃を期待せざるを得ないのです。