小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●ハイテク新型ロンドンタクシー、遂に2月から受注開始!
知る人ぞ知る世界のユニークタクシー、新型ロンドンタクシー(以下ロンタク)こと、LEVC TXがニッポン初発表! 受注を開始しました。
ロンタクは戦前からロンドン市内を走っている珍しいタクシー専用車両ですが、独自の「シルクハットをした成人が乗れること」「回転半径4m」「助手席を荷物専用にすること」などの車両規定から、ユニークな背高デザインになり、世界的にもNYタクシーの「イエローキャブ」と並んで「ブラックキャブ」と呼ばれ愛されてきました。
ディテールは時代によって変わりますが、新型TXはコンセプトが一新。
▲新型ロンドンタクシーTX 英国生産のレンジエクステンダーEV モーターが後輪を駆動 発電用1.5L直3ターボエンジンを搭載
ボディ表面は鉄板ではなく樹脂となり、骨格はリベット&接着剤留めされたアルミフレームを採用。
駆動は120kWの電気モーターのみで行い、搭載されているボルボ製の1.5直3ガソリンエンジンは発電専用。
実は31kWhという1st日産リーフを越える巨大リチウムイオン電池を搭載したレンジエクステンダーEVであり、世界でも希な電気自動車タクシーなのです。
それもそのはずそもそもかつてロンタクを作っていたLTI(London Taxi International)社は、2013年に有名な中国のジーリー・ホールディングスに買われて、2017年にはLEVC社へ改名。
▲全長×全幅×全幅4855×1874×1880㎜ ホイールベース2985㎜ 最小回転半径4.0m
London EV Companyの略であり、いきなり戦略的なほぼEV専業の商用車メーカーへと生まれ変わっています。
新型TXは500億円以上かけて作られた、英国コベントリー郊外の新工場で生産され、溶接工程は一切ありません。
ある意味、中国資本で作られた英国製スーパーカー的タクシーともいえ、チーフエンジニアはなんとマクラーレン出身なのです。
▲モーターと発電用エンジンの組み合わせで航続距離は約600㎞に到達
肝心の新型TXのお値段ですが、日本円で税込1120万円!
スーパーカー並みの作りと大容量バッテリー、モーターとエンジンを備えることから考えると納得ですし、政府と都の補助金によって756万円で買えるようですが、それでもトヨタのジャパン・タクシーと比べて約3倍! 正直マトモに勝てるとは思えません。
●圧倒的な乗り降り性と広さ、車いすの載せやすさは比較にならない!
だが、ジーリーもバカじゃない。そこには秘かに勝算があります。
それは世界のエコ&ユニバーサルタクシー需要です。
実際、新型TXは18年に欧州で発売されるなり、地元ロンドンはもちろん、電動化に熱心なノルウェーやデンマークから引き合いがあり、すでに13ヶ国で3800台以上も売られています。
1000万円を越える価格を考えると破格ですが、世界ではフル充電すれば完全にEVとして走れるタクシーを、ある程度、求めているのです。
▲キャビンは広大 3名乗車の後席は頭上/足元ともにかなり余裕がある フロアはフラットで乗降しやすい
さらに新型TXはタクシーとしての使い勝手が格段に違います。
試乗して驚きましたが、まず驚異的な室内の広さとアクセス性、最小回転半径です。
▲ロンドンの市街地を走るため最小回転半径は極小 タイヤの切れ角は大きい
ボディサイズは全長4.855×全幅1.874m。メルセデスベンツEクラスよりちょっと短い程度。
しかし全高1.88mの高さと、ずんぐりむっくりボディ、観音開きドアによる開口部と室内は超広大。
▲リアドアは観音開き方式で90度まで大きく開く ドアは手動式
その気になれば大人と子供が手をつないで入れるほどで、プリウスあたりのタクシーとは利便性が比べものになりません。
▲電動車いすの乗車例 車いすを固定するシートベルトを装備
小回り性能も驚異的で、フロントタイヤのキレ角なんと63度。最小回転半径は実に4mと12mm。スズキ・ワゴンRより小さく曲がれるのです!
居住性もすごい。車内は前後に大人6名がラクに乗れます。
▲前席側にも3名乗車可能な折り畳み式シートを完備
さらにここからが肝心ですが、車いす用のスロープをフロア内蔵。
▲スロープは後席下部に収納してある
▲スロープはスムーズに引き出せ簡単に設置可能
引き出す作業は慣れれば1分もかかりませんし、車いすとともに大人3~4名が乗れます。
別体のスロープがトランク収納で後付け、なんだかんだで乗車拒否もやむを得ない日本のタクシーとは比べものにならないのです。
同時に2.7トンという重い車重、同じグループのボルボ譲りのしなやかなサスペンションが織りなす乗り心地が素晴らしくいい。
重厚感、運転時のステアリングフィールも予想以上にしっかりしています。
▲ドライバーは後席から隔離され運転に集中できる
実際、日本のタクシーは一定料金なのでツラいでしょうが、海外のUberのように多人数の乗車に応じて料金を可変できれば、新型ロンドンタクシーの魅力は増します。
▲大きな荷物は助手席に積むのがロンドンタクシーの流儀
▲最後部スペースはスペアタイヤなどを搭載
さらにもうひとつ、アルミフレーム&リベット&接着ボディの良さは耐久性で走行100万キロを想定しているとか。
そこで気になるバッテリーですが、驚くべき事に100万キロ走行でも無交換を想定しています。よほど冷却やマネジメントに気を使っているようですが、これが証明されると新型TXの未来が変わります。
いま、盛んにいわれる「CASE」に代表される自動車業界の大変革。有料タクシーサービスもハードウェアもろとも革新の時期なのかもしれません。