小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●最初は当たらないと思っていたが...
まさかこんなに売れるとは!!
そう、1ヶ月の受注がいきなり3万7000台と、同3万1000台のホンダ・フィットを抜いた新型トヨタ・ヤリスです。
今回、ようやく公道で乗れました。
▲トヨタ・ヤリス1.5リッター・G(FF) 価格:6MT 170万1000円/CVT 175万6000円
元々は「ヴィッツ」と呼ばれていた1999年生まれのコンパクトハッチ。しかし、4thモデルへの進化と同時に、欧州名「ヤリス」へ改名しました。
理由は2つ、このままだと同じトヨタの「アクア」とシェアを奪い合うので、濃厚なキャラクターに進化させたかった点。そしてもう一つは2020年ラリー・ジャパン(WRC:世界ラリー選手権の日本ラウンド)の復活です。
日本ではさほど知られていませんが、ヤリスはそもそも欧州でプジョー、シトロエン、ヒュンダイなどと競い合う俊敏なスポーティコンパクトです。
久しぶりにWRC(世界ラリー選手権)が国内で復活、雄姿を見せると同時に、ファミリーイメージの「ヴィッツ」をスポーティで凝縮感ある「ヤリス」に昇華させたいのです。
▲躍動感のあるリアスタイル 全長3940×全幅1695×全高1500㎜の5ナンバー規格
とはいえ、乗る前はフィットには敵わないかも? と思っていました。
トヨタ・コンパクトのメインは2021年に発売が予想される「2ndアクア」でしょう。
とりあえずヤリスは様子見では? と。
なぜなら新型ヤリスは、広々ミニバンや背高ノッポKカー全盛の日本に、「凝縮デザイン」と「走り味」で勝負に出た反逆児だからです。
いまどき広さではなく、狭さと味で勝負! という。
●ドライバーズカーを実感する作り
まず、小沢は人気のハイブリッドではなく、2番人気の1.5リッターガソリンに乗ることができましたが、スポーティさは圧巻。
第一の注目はスタイリングです。
全長×全幅×全高は3940×1695×1500mmと、旧型比で5mm短く実質30mm低くなっています。
▲新開発TNGAプラットフォームによる低重心化を達成 真横から見ると前席優先の考え方が明確にわかる
見た目も、フロントはヴィッツのイメージが残っていますが、リアは横一線の「棚」のようなガーニッシュが圧倒的スポーティ感を発揮。
車内のスペースは旧型とほぼ変わらないといいますが、いきなり超広々視界の新型フィットとは真逆の方向。
フロントシートからしてタイトで、リアシートには一応身長176cmの小沢が座れますが、車格の違いを感じるほど。
同じ4m以下コンパクトなのに! ラゲッジ容量も200リッター台と露骨に狭め。
●ヤリスはほかにない二面性が強み
かたや走りのスポーツ度は想像以上。
テストコースで乗ったときは乗り心地の良さばかり感じましたが、公道では不快ではないものの、結構ゴツゴツ感もあるソリッドさを確認。
大人しいコンパクトカーというより、コンパクトカーの皮を被ったスポーツカー的!
さらに発進の「出足感」が素晴らしく、骨格たる新投入の新作1.5リッターダイナミックフォースエンジンが秀逸。
▲高速燃焼を徹底追求した素晴らしい完成度の新開発1.5リッター直3DOCH12V ダイナミックフォースエンジン
ピークパワー&トルクは120ps&145Nmと大袈裟ではないものの、車重がホワイトボディでマイナス50kg!
試乗した「G」グレードでも車重1トンと軽いうえ、発進用の1速ギアを設けたダイレクトシフトCVTの効果大。
アクセルを踏むなり間髪入れず気持ち良く立ち上がる。
その感覚はMTのスポーツカー的な味わいすらあります。
さらにステアリングに対するレスポンスがいい。
遅れがないだけでなく、手応えもガッチリ上質。ファミリー向けであるヴィッツが、スポーティなヤリスに生まれ変わっているのです。
▲3本スポークステアリングは手応えしっかり スポーティな走りのリズムを生み出す
とはいえ、小沢は販売状況の内訳を見て愕然としました。
実は量産車世界最良燃費とも目されるWLTCモード燃費36km/Lのハイブリッドの割合は45%と、多いけれど過半数を超えていません。
それ以上に聞いてビックリ! なのは、購入年齢60代以上が50%。
本当の売れ筋は1リッターと1.5リッターのガソリンなのです。
ここまで来て、見えてくるのは「意外なるヤリスの二面性」。
確かにハンドリングの良さは大きなメリットですが、パワートレインは量産車世界最良燃費となるはずのWLTCモード36km/Lの1.5リッターハイブリッドに加え、スポーティな1.5リッターガソリン、安価な1リッターガソリン、さらにWRCベース車となるGRヤリスまでラインアップしています。
つまり「世界レベルのスポーティコンパクト」であると同時に、「扱いやすい年配向けコンパクトカー」でもあるのです。
▲後席スペースは開口部も含めてミニマム 後席を頻繫に使うユーザーは要確認ポイント
トヨタは公表したがらないかもしれませんが、購買平均年齢は50代近い可能性があります。
そこにはヴィッツで培ったダイハツ製を除く伝統の「トヨタ最小コンパクト」という厳然たる事実が光ります。
ヤリスに名前は変わりましたが、実質半分はヴィッツでもあるということなのです。