小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●軽スーパーハイトの世界にセレナのノウハウを投入
いよいよ出ましたよ、最後発の国民車候補が!
その名は日産ルークス。
日産待望の売れ筋Kカーである全高1.7m台スーパーハイトワゴンです。一応3rdモデルということになっています。
しかし、09年デビューの1stルークスは中身がスズキ・パレット、2ndデイズ・ルークスは軽ビジネスを協業する三菱自動車が開発を主導したクルマ。
今回の3rdモデルは、2019年に誕生したノーマルハイトワゴンのデイズに続く、初の日産開発主導Kスーパーハイト。
それだけにかつてない期待が膨らむわけです。
▲新型日産ルークス・ハイウェイスターXプロパイロットエディション(FF) 価格:CVT 184万3600円 ハイウェイスターは専用フロントマスクを採用
具体的には開発コンセプトでもある「ミニバンの使い勝手と軽の運転しやすさを両立した新しいカタチ」に注目。
今回は同社のトップセールスミニバン、セレナのノウハウを投入したのが最大のポイント。
なぜなら正直、このクラスの覇者、ホンダN-BOXは3年連続オールジャンル年販NO1を続けるなど絶大な人気を誇っており、牙城を崩すのはなかなか困難。
事実、外寸枠が決まった軽自動車カテゴリーで、広さを稼ぐには絶対的室内長でありホイールベース長が必要。
▲特徴的なKスーパーハイトワゴンのスタイル 前後ドアは大きな開口部 上級グレードのスライドドアはハンズフリー開閉機構付き
その点、新型ルークスのホイールベースは旧型比+65mmの2495mmとなかなかのスペック。
しかし、エンジンルームが極端に短いホンダN-BOXは2520mmで、依然として新型ルークスを上回っており、アドバンテージがあります。
パワートレインも基本660cc直3&CVTの組合せはルークス、N-BOXはもちろん、ダイハツ・タントやスズキ・スペーシアもほぼ同じですが、ノンターボのピークパワーはN-BOXが58psとダントツ。
新型ルークスは悪くないとはいえ52ps。ピークトルクもN-BOXの65Nmに対して60Nmにとどまります。
▲全長×全幅×全高3395×1475×1780㎜ ホイールベース2495㎜ 室内長2200㎜
はたして、そういったN-BOXのアドバンテージを、独自技術とセレナのノウハウでルークスがいかに打ち破れるか? というのが今回の焦点なのです。
●スタイル、スペース、走りを勝手にガチで比べてみる
スタイルはぶっちゃけインパクトが薄め。
日産自慢のVモーショングリルこそ印象が強くなってますが、真四角っぽさではN-BOXに分があります。
印象度でいうと兄弟車の三菱eKクロススペースの方が強いでしょう。
▲ハイウェイスターのインテリアはブラック基調 opでライトブラウンのレザー調トリムが選択可能
一方、インテリアの質感はN-BOXと同等レベル。
趣味は分かれそうですが、明るいブラウン基調のN-BOXに比べ、シックなブラック基調。とくにスポーティな3本ステアリングはグレードにもよりますが、セレナ同様自慢のハイテク走行支援システム"プロパイロット"のスイッチが輝き、色合い共に「セレナのKモデル版」のイメージ。ジャンルの枠を越えています。
最も気になるスペースユーティリティですが、驚いたことにリアシートに座ってみるとヒザ前スペースはN-BOXと同等。それどころか日産エンジニアにいわせると「数ミリ勝っている」とも。
ええ? ホイールベースで負けている新型ルークスが、なぜN-BOX同等か勝っているのか?
実は、ここが最大のポイントですが、ルークスは車内スペースを縦に使っており、フロントシートの着座位置を従来より上げ、結果としてシート位置が前に動いています。それにより後席スペースを広げたのです。
▲フロントシートは腰の疲労感を抑える形状のゼログラビティ設計を新採用
▲後席を最後方にスライドした場合の足元スペースは広大
同時にセンターピラーも前にし、リアスライドドアの開口部は旧型+96mmの650mmとN-BOXを越えるクラストップの広さ! リア席ヒザ回りの広さとリア席の載せやすさでは、N-BOXを上回っているのです。
▲足元も頭上も広々とした空間はスーパーハイトワゴンならでは
リアのシートスライド量もクラストップの320mmで、一番前にスライドしたときのラゲッジ容量はトランク4個+αでダントツ!
スペースユーティリティはクラストップであり、それこそがセレナのノウハウなのです。
そのほか、リアシートの折り畳み作業の軽さやテールゲート開閉の軽さもピカイチで、女性ユーザーを徹底的にフォーカス。
両手で荷物を持ったまま、足のゼスチャーで電動スライドドアを開閉できる"ハンズフリースライドドア"も両側にクラス初で装着可能。
まさにかゆい所に手が届くような便利さ! この点ではN-BOXを越えているといっていいでしょう!
●ハンドリングのルークス、乗り心地のN-BOX
さて、走りですが、これはN-BOXに負けている? というか方向性を異にしています。
64psのターボ車はともかく、細かく8ps&5Nmとスペックで負けているノンターボは、日産自慢のマイルドハイブリッドの電動力によってカバーします。
発進時に電動の介入具合がひと呼吸遅れ気味なのが気になりますが、速さは同等でしょう。
▲ノンターボのハイウェイスターは155/65R14のタイヤを装着
それより一番違うのは乗り心地。
現行N-BOXは「これが軽自動車か!」と思うような乗り心地の良さ、しなやかさが売りですが、ルークスにそれはありません。
いかにも軽自動車っぽい軽さはありませんが、路面の凹凸をそれなりにコツコツ拾う印象。このあたりはN-BOXに負けています。
しかしその分、硬めの足回りが織りなすロールの少なさ、ステアリングレスポンスの高さはN-BOX以上。
しなやかさよりスポーティさを取ったという表現が正しいのかもしれません。
▲プロパイロットエディションはステアリングスイッチで全車速対応アダプティブクルーズコントロールの設定が可能
さらにいうならば、ルークスの最大のアドバンテージは先進安全機能! そう、高速道路で完全停止可能な追従式オートクルーズや積極的なレーンキープトレースを行う"プロパイロット"が付けられるのです。
同時に、先行車が来てもハイビームが使えるアダプティブLEDヘッドランプ、2台先の動きまで読むインテリジェントFCW、緊急時に自動通報してくれるSOSコールなども装備できます。
つまりルークスが勝っているのはリアシートやトランクの広さとスポーティな味付け、先進安全技術ということになります。
かたやN-BOXは乗り心地のよさ、同等の広さに加え、ホンダセンシングを141万円台の廉価グレードから標準装備する総合力がすごい。
残念ながらルークスのプロパイロット付きグレードは184万円台スタートと高いのが難。
もしや、お金持ちのハイテク好きならルークス、総合力ではあいかわらずN-BOX! という、いままでにない図式になるのかもしれません。
▲後席を最後方にスライドした場合のラゲッジスペース
▲最前方にスライドした場合は広いラゲッジスペースが実現
▲チャイルドシートの載せた場合にも運転席から手が届くなど後席ロングスライド機構は便利に使える