小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●SUVも4WDも絶対に作らないと宣言したマクラーレン第4の柱
フェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなどなど、名だたるスーパーカーメーカーは数あれど、小沢がピュアで硬派だと思うのはイギリスのマクラーレンだ。F1コンストラクターから始まり、本格的なロードカー部門のマクラーレン・オートモービルが発足したのは2009年。いまからわずか11年前だ。
しかし、2018年の世界販売はすでに4800台を突破し、急速にランボルギーニなどをキャッチアップ。しかも2018年には中期経営計画「Track25」を発表し、2025年までに18車種の新型車投入、すべてのスポーツカーをハイブリッド化するとしている。
目標の生産台数は年間6000台。フェラーリには及ばないものの、台数はある程度狙っているわけだ。
▲新型マクラーレンGT 価格:7SMT 2645万円
しかし、マクラーレンが一番スゴいのは安易な量販モデルは作らないこと。
たとえば、いまや年間28万台を発売するポルシェの約7割はSUVで、ランボルギーニも2018年には初の乗用SUV、ウルスを発表した。
ぶっちゃけ、スーパーカーブランドが台数を稼ぐにはSUVや4名乗車モデル、4WDを作るのが最も手っ取り早いのだ。
しかしマクラーレンは違う。2018年の720Sや2019年の600LT海外試乗会にも行ったが、いつもクチを揃えて「SUVは絶対に作らない」との一点張り。
実際、Track25に新型SUV計画は絶対ない。
▲ボディサイズは全長×全幅×全高4683×2045×1213mm
なにより、現在あるアルティメットシリーズ、スーパーシリーズ、スポーツシリーズの3種のシリーズは、すべてリアミッドシップのカーボンモノコックの2WDモデル。
フロントエンジン車や4WDモデルは一切ない。すべては操縦性と運転する楽しさに割り切っているわけだ。
ただし2019年に発表した"マクラーレンにしては"軟弱なモデルがある。
それは現在3つのシリーズにもうひとつ加わるともいわれているGT、つまりグランドツーリングモデルで、最大の特徴はラゲッジスペース。
▲フロントフードは大きな開口部を持ち、その下にはラゲッジスペースが用意される
そう、リアに420リッターのスペースを持ち、フロントにも150リッターのトランク。合わせて570リッターと広く、とくにリアにはゴルフバッグが1セット、もしや軽量タイプなら2セット載るかも? という話なのだ。
なんとも、頑固な硬派さのなかでの利便性だろう。
●マクラーレンGTは薄型ならゴルフバッグが2セット収納可能!
論より証拠。先日、初めてマクラーレンGTでゴルフに行ってみた。
細かくいうと、リアにはフルサイズのゴルフバッグの代わりに、185cmのスキー板2セットも載せられるとか。
肝心のゴルフバッグだが、最初に小沢のバッグを積んだときは、バックドアが締まらず電動で跳ね上げられてしまった。
▲リアハッチ下には420リッターという大容量ラゲッジスペースを用意
バッグの直径は8インチ。さらに付属のサンシェードも挟まって厚みがあり過ぎたらしい。シェードを外したら閉めることができた。
▲ゴルフバッグ1セットの場合 ラゲッジネットで固定可能
それより朗報は、8インチサイズであれば前後を互い違いにすると、2セット入るではないか!
通常のフルサイズのゴルフバッグ=直径8.5インチ以上だと難しいが薄型ならOK。つまり、マクラーレンGTならば彼女とのツーサムゴルフデートも可能なのである。
▲薄型ゴルフバッグ2セットが積載可能 スーパースポーツとしては異例の積載性
細かいことだがGTは標準でフロントサスペンションに電動リフトアップ機構が付く。電動スイッチひとつでノーズが約2センチ上げられるもので、これで狭い駐車場の入口やデコボコ路面でも安心。こんな装備がマクラーレンに純正で付く日がくるとは思わなかった。
▲フロントフード下のラゲッジスペースは深い
なにより肝心なのは走り味である。
実はマクラーレンGT、現状ある2シリーズの合作で、骨格はスポーツシリーズから派生した「モノセルII-T」、エンジンはスーパーシリーズの4リッターV8ツインターボをディチューンしたもの。
排気量は720Sと同じだが、出力は落とされ、ピークパワー&トルクは620ps&630Nm。ギアボックスはお馴染みの7速DCTだ。
▲軽量で高剛性のCFRPモノコックを採用 サイドシルは太いが低いため乗り降りしやすい
実際の味わいだが、最初に驚くのはステアリングフィール、乗り心地がいままでのスーパーシリーズ、スポーツシリーズより確実にマイルドなこと。とくに低速域の滑らかな路面では手応えの優しさを感じる。
さらに高速に入り、アップダウンの多い道を走るとノーズが大きくストロークするのがわかる。正直、こんな柔らかいマクラーレンは初めてだ。
▲サスペンションの設定は可変式 ツーリング時はソフト
サスペンションの設定を硬めのスポーツにし、飛ばすと完璧にリアルマクラーレンに変身する。ステアリングフィールはソリッドで、アクセルをベタ踏みすると速い速い。
0-100km/h加速は3.2秒とトンデモなく、パワーも720Sよりないとはいえ620psもあり、車重は1.5トン台。ハッキリいって他のスーパーカーブランドのSUVや4シーターの走りとはワケが違うのだ。
▲スーパースポーツの優雅なフォルムと使い勝手を両立した新しい提案
荷室の分、720Sと比べると全長は約14cm伸び、ホイールベースは5mm伸びたが、たったそれだけだ。
確かに快適に便利になったとはいえ、不文律をほとんど崩してないマクラーレンGT。どれだけ硬派なブランドなのでしょうか、ねぇ?