小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●7thゴルフはもはやラストもラスト
コロナ禍で試乗会が行われていないなか、これまでゆっくり乗れていなかったモデルに乗ってみた。
その名もVWeゴルフ。ご存知、世界のベストセラー、ゴルフ7(Ⅶ)のエンジン無しピュアEVバージョンだ。
ゴルフ7はモデル末期も末期。欧州では次世代ゴルフ8も登場している。
だが、8thもプラットフォームの基本はゴルフ7と同じMQBで、なによりゴルフはVWの目論見どおりに行けば、ピュアEVのID.3に置き換わる。
事実、ID.3はゴルフとほぼ同じ全長4.2m台のハッチバックで、2020年9月から欧州で納車が始まる予定。
ゴルフの将来やID.3の出来を占う意味でも、eゴルフにはちゃんと乗った方がいいに決まっているのだ。
▲VW・eゴルフ eゴルフは現在プレミアムというグレードのみ販売中 eゴルフ・プレミアムの車両本体価格は560万3970円
さて、eゴルフの性能を考えるうえで最も参考になるのは、ほぼ同クラスで一番売れているピュアEVの日産リーフである。
全長こそeゴルフが4265mm、リーフが4480mmと異なるが、あとはほぼ丸被り。居住性に大きく関わるホイールベースは2635mmに2700mm、モータースペックは136ps&290Nmに150ps&320Nm、リチウムイオン電池量は35.8kWhに40kWh(ノーマルモデル)、車重は1590kgに1490kg、航続距離はJC08モードで301kmに400km。
ここまで来ると分かるが、単純にEVとして見ると、eゴルフはリーフの標準モデルに全く敵わない。
とくに興味深いのはパワースペックや電池量で微妙にリーフに負けている上、肝心の航続距離で完全に負けていること。301kmと400kmの違いは相当に大きい。
しかも価格が段違い。
これでeゴルフの方が安いならまだ分かるが、リーフは部品の中でも最も値の張る電池を40kWhも搭載していながら332万円から買える。
eゴルフは508万円スタートでざっくり176万円も高い。装備が違うのでリーフ上級グレードのGで比べても418万円なので100万円近く違う。
補助金も出るので、この差は微妙に変わってくるが。
ぶっちゃけEVとして見ると、リーフの方が圧倒的に優れていることがわかるが、逆にいうとEV作りがいかに特殊で、ガソリン車と同じノウハウでは歯が立たないことがわかる。
▲全長×全幅×全高4265×1800×1480㎜ 日本でも扱いやすいボディサイズ
まずは比較にならないほど安く、軽く作る技術が必要になる。
実際、リーフはほぼ同じ動力スペックでeゴルフよりちょうど100kg軽い。
ボディが重い分、無駄に電気を使っているのは間違いなく、EV作りにおいて軽量化技術はとにかく大切なのだ。
●乗るとeゴルフは今すぐ欲しい!と叫びたくなるほど超気持ち良くて上質
だが、乗ってみると印象は180度変わる。
eゴルフ、実に上質で静か、かつ超気持ちいいのだ。
マジメな話、価格次第では今すぐ欲しいと思ったし、ゴルフ7というクルマが素材としていかに優れているかを再確認できた。
強引に例えるならば超旨い塩ラーメンにも似ている。
▲オーソドックスなインパネ周り ステアリングフィールはしっとり滑らかで上質 適度な重さが安心感を生む
ラーメンは、醤油や味噌ダレと合わせた場合、多少スープのゴマカシが効くが、塩では無理。スープをはじめ素材の良さが露わになってしまう。
それと同じで、ピュアEVにすることで、ゴルフのボディであり、足回りの良さがあらためてわかったのだ。
具体的には乗り心地が超絶イイ。
そもそもガソリン版ゴルフでも、ヘタな高級車顔負けだったが、車重がほぼ1.6トンと重いだけあって、しっとり感が半端ない。
▲剛性の高いプラットフォームにしなやかな足回りの組み合わせで乗り心地は極めて良好 シートの座り心地もいい
▲室内は大人4名がくつろげる適切な広さを確保
▲後席頭上スペースにもゆとりがある
さらに当然のことながら静粛性はピカイチで、モーター置き換えEVにありがちな妙なメカニカルノイズもほとんどない。
個人的にはほぼ同時に乗った新型ホンダ・アコードより乗り心地が良いと思うほど。まさしくゴルフ7は名車だ。
加速にテスラ的な驚きや、リーフのワンペダル運転のような面白さはないが本当に上質。
ステアリングフィールも、しっとり滑らかかつ手応えがあって、肉の線維をほどよく感じるフィレステーキのように素晴らしい。
細かい部分では、シートは大柄でガソリン版ゴルフ同様、お尻が折れ目にハマり込むように安定し、本当に疲れない。
これなら何100km走っても良さそうだ。
▲フロントにモーターやインバーターを配置 駆動系の静粛性が極めて高く静かでスムーズに走る
一方、リアラゲッジは電池の分床は高くなるが、それでも341リッターの広さを確保。なんとかゴルフバッグ1個なら搭載できた。
ただし、航続距離に難はあり、今回はゴルフ場まで往復したのだが、フル充電で330kmと残走行距離が表示されていたのに、速めに80km走った時点で残りはわずか130km。表示の半分も走れなかった。
▲ラゲッジ下にバッテリーを搭載するがスペースはそこなわれず341リッターの容量を確保
もちろん帰りはゆっくり走ったら100km以上走れたが、とにかく飛ばすと表示の半分も走らないのにがっかり。
実際、そのためにも3段階の走行モードがあり、「ノーマル」「エコ」「エコ+」が選べ、とくにエコだと時速100km弱で頭打ち。
結果、航続距離は伸び、モードの意味をつくづく痛感できたが、eゴルフ、走り味がいい分、航続性能の物足り無さはやはり残念。
だが、朗報もある。
現状、eゴルフは中古車マーケットならかなり熟れていて買いやすいのと、今後出るだろうID.3はこの欠点を間違いなく補ってくることだ。
実際、発表されたスペックによるとID.3はリアモーターでハンドリングがいい上、航続330kmのベースモデルの価格が、欧州補助金を適用後、2万3430ユーロ(約277万円)以下となるらしい。
しかもEVはオイル交換代が要らないし、充電状況にもよるが、エネルギー代はガソリンよりもグッと安くなる。
中古のeゴルフも興味深いが、欠点を取り去ったID.3も興味深い。
とりあえず日本導入はまだ結構かかりそうなので、手軽で上質なeゴルフで繋ぐのも一考の余地あり、かもしれません。