小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●ハリアーはヘタをすると消えていたかも?
2020年、最も注目するクルマにやっと乗ることができた。
それは4thトヨタ・ハリアー。
いったいどこがすごいかって、日本人が作った日本人のための貴重なSUVであることだ。
▲新型トヨタ・ハリアー G(FF) 価格:341万円 全長4740×全幅1855×全高1660㎜ ホイールベース2690㎜ 車重1570kg
4thハリアーは一応、ヴェンザという名前でアメリカや一部アジアでも売られるが試験的で、あくまでも本命は日本市場。
いま、国内で売られている日本専用車はいよいよ少なくなっている。
残るのは軽、ミニバンとセダンのクラウンやプレミオぐらい。
SUVはほぼすべて世界戦略車といえるほど壊滅的だ。
トヨタC-HR、RAV4、ランドクルーザー、ホンダ・ヴェゼル、日産エクストレイル、キックス、三菱アウトランダーはすべてグローバルカー。
そもそもSUVブームは日本ではなく欧米から始まっているからして。
▲新型トヨタ・ハリアー G ハイブリッド(E-Four) 価格:422万円 車重1720kg
なかでもハリアーは奇跡的な存在だ。
10年前には無くなっていたかもしれないのだ。
1997年に1stモデル登場。日本ではハリアー、北米ではレクサスRXとして売られ、それは2代目まで続いた。
09年発売の3rdRXからデザインや作りがグローバル化し、同時にハリアーは消え去る運命だった。日本でも世界戦略車のレクサスRXのみ残る予定だったのだ。
ところが2ndハリアーが異様な人気を発揮。発売から10年経ってもヤングなクルマ離れ層に売れ続けた。
その異例っぷりはトヨタ幹部も無視できず、2013年、ついに国内専用車として3rdハリアーが登場したのだ。
デザインは基本、内向き。全長4.7m台、全幅1.8m台のサイズは国際基準だが、端正かつ流麗なフォルムはクーペ的。SUVの流行りとは全然違う。
インテリアもまたすごかった。「本革を越える人工皮革」を標榜し、お金をさほどかけずにリッチな世界観を実現。
ボディカラーも、夜のブラックスーツのような「選べるブラックカラー」を採用。結果、国内のみで31万台強も売れたのだ。
はたして3rdモデルがつないだ日本流SUV、日本人が好む高級感を備えたハリアーはどう進化したのか?
●ハリアーネスが控え目かつ本格的に進化
新型ハリアーをひと目、見るなりひと安心。
マッチョすぎず、淡泊すぎずの流麗フォルムを失ってない。
トヨタがいうところの「ハリアーネス」だが、直線基調のフロントマスクにハデ過ぎない抑揚フォルムは健在だ。
▲ルーフがなだらかな曲線を描くクーペスタイルがいっそう強調された
一方、プロポーションは微妙に進化している。骨格は2019年に国内発売されたRAV4と同じGA-Kプラットフォームを採用。
全長は15㎜伸びて4740㎜、全幅は20㎜広がって1855㎜、全高は30㎜低い1660㎜となった。ホイールベースも30㎜伸び、よりタイヤが四隅に配置された安定感のあるフォルムになっている。
一方で前後のアクリルグリル、横長コンビランプは旧型より控え目になった。明らかに厚さが薄くなり、鋭くなっているのだ。より上質化したといっていいだろう。
それ以上に圧巻なのがインテリアの質感だ。
そもそも3rdハリアーはクオリティの高い人工皮革を多用して価格を超えたリッチ感を演出。高い人気を誇ったが、新型はそこからさらにアンダーステイトメントに進化。
▲Gグレードのインテリア 写真のグレー内装はシートステッチがベージュでパネル加飾はホワイトウッド調の組み合わせ
▲Gグレードのブラウン内装はシートステッチもブラウンでグレーウッド調パネル加飾を採用
インパネはマッドな色合いと滑らかなタッチの皮革で覆われ、シートも廉価なGグレードでさえ、質の高いファブリック素材と人工皮革で覆われている。
ぶっちゃけヘタな輸入SUVに負けず劣らずの高級感だ。
走りもすごい。RAV4で定評のあるGA-Kプラットフォームの実力はものすごく高く、SUVでありながら高級セダン顔負けの乗り心地とハンドリング。
マジメな話、クラウンから乗り換えてもそう不満を覚えないレベルだろう。
▲滑らかでスムーズな走行フィールと乗り心地はハイレベル ハイブリッドは優れた加速性能と静粛性を併せ持つ
パワートレインも満足度は高い。メインは218psの2.5Lハイブリッドで、力強さ、静かさともに圧巻だが、ダイレクトCVT付きの2Lノンターボ直噴でも悪くない。スペックは171psと特別すごくはないが、十分。
さらに重要なのが価格戦略で、なんと2Lノンターボの「S」が299万円。これは10%の消費税込みで、旧型より安くなっている。最新のハイテク安全が付き、走りが良くなり、燃費も向上してのこの値段は驚愕。
開発担当の小島利章主査いわく「299万円は絶対死守で」というとおり、新型ハリアーの本当の価値はここにある。
欧米系SUVにはない、控えめな和の美しさや、きめ細かいクオリティに加え、マジメにドイツ系プレミアムに比べ100万円どころか200万円以上安い価格感。
全長4.7m台のBMW X3にしろビックリ675万円スタートなのだ。
ハリアーはいろんな日本人の不満に応えている。「日本人向けのSUVがないこと」「燃費のいいハイブリッドSUVがないこと」「高級車がみんな高いこと」などだ。
ハリアーが売れるのはある意味当然だ。どんどんグローバル化しつつある高級車界で、唯一日本人ユーザーの顔色とサイフの具合を気にしている。
これを逃したら、こういうクルマはもう生まれないのかもしれない。
▲Gグレードはファブリック+人工皮革シート表皮が標準 写真の内装色はグレー
▲Gグレード/グレー内装のリアシート
▲Gグレード/ブラウン内装のフロントシート 人工皮革とファブリックの組み合わせ
▲Gグレード/ブラウン内装のリアシート
▲広いラゲッジスペースはゴルフバッグが3個積載可能