小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●72年ぶりのフルモデルチェンジなんてアリ?
オキテ破りのフルモデルチェンジはオキテ破りの変革をもたらしたようだ。
1945年生まれのCJ型ジープ、1951年生まれのBJ型トヨタ・ランドクルーザーと並ぶ歴史的クロカン4WD、ランドローバー・ディフェンダーである。
実質1stモデルになるランドローバー・シリーズ1は1948年に誕生。
以来、細かい改名と改良を繰り返しながら、今年72年ぶりについにフルモデルチェンジした。
メルセデス・ベンツGクラスがほぼ40年ぶり、スズキ・ジムニーがほぼ20年ぶりにフルモデルチェンジしたけれど、72年ぶりなんて聞いたことがない。
おそらく世界最長のモデルサイクルなはずだ。
▲ディフェンダー110 レザーシート&7人シート仕様 価格 8SAT:843万3000円
というよりも、1stモデルと新型ディフェンダーはもはや別モノであり、通常のモデルチェンジとは違う要素を譲り受けている。
それはディフェンダーが持つ特有の上質感、本物感であり、ある種のブランド世界観である。
今回はその譲り渡しっぷりが、通常とは違っていて非常に面白い。
旧型と新型は、骨格はもちろん、構造、ボディサイズまで全く違う。
旧型モデル末期の2003年式110SEディーゼルターボ4WDの全長×全幅×全高は※4570×1790×2070mmでホイールベース2800mm。
一方、新型110SEは4945×1995×1970mmでホイールベース3020mm。長さも横幅もかなり違う。
なによりボディ構造が全く違っている。1stモデルが古典的な鉄製ラダーフレームにアルミボディを載せていたのに対し、新型は新開発のアルミ製「D7Xモノコック」。
旧型比で約3倍のねじり剛性を誇り、サスペンションは前後リジットから独立懸架になり、ステアリング型式もボール・ナット式からいまどきのラック&ピニオンに変化した。
4WDシステムも1stモデルはマニュアルの副変速機(トランスファー)を備えていたが、今回は完全電子制御。50年分はイッキに進化した感じだ。
一方、外観はところどころに1stモデルのイメージを残しつつもポップに変化。
そのサジ加減が非常に面白く、1stモデルを思わせる丸目LEDランプにスクエアグリルを持ちつつも、フロントマスクはまるでロボットのようなキュートさ。
全体フォルムも箱をイメージさせる1stモデルに比べ、大胆に曲線を使ったマッチョなモノになっている。
とくに後方からみたリアフェンダーの盛り上がり方は全然違う。
インテリアも非常に面白く、いまどきのジャガーさながらの横長ワイドディスプレイをメーターとセンターモニターに備えつつも、空調パネルにはアナログダイヤルや機械式スイッチが使われている。
助手席前は大型モノ入れ兼クロカン4WDでは必須のインパネアシストグリップも備わっている。
古さと新しさが絶妙に共存しているのだ。
圧倒的なのは走りで、高剛性モノコックボディに独立懸架の足回りは先進的だ。
本格オフロードタイヤを履くがゆえ、路面のザラザラ感こそ拾うが、それ以外は完璧に高級サルーン並みの乗り心地。
ズバリ、快適性では現行メルセデス・ベンツGクラスを上回り、メルセデスサルーンにも迫る。
パワートレインも現状、日本に入ってくるのはジャガーと基本同じ2Lディーゼルターボのインジニウムエンジン+8速ATで、一瞬パワー不足と思いきや十分。
なにしろ2Lで300psの最高出力と400Nmの最大トルクを発揮するのだ。2トン超えのボディを楽々と引っ張る。
それでいて、ひとたび悪路に入ってオフロードモードに切り替えれば、8速ATは自動で全域ローギアード化された上、車高も7.5cm上がって楽々と滑りやすいアップダウンを走破する。
さらに驚きは最新の映像合成技術を使った3Dサラウンドカメラで、インパネモニターにフロントタイヤが悪路に接地するシーンを映し出せるからスゴい。
大きな岩をギリギリで除けて走る事ができるのだ。
というわけで、あまりに大きな進化を遂げた2代目新型ディフェンダーだが、最大のポイントは他にないその二面性の振り幅にある。
オンロードの時はこの上もなく上質で、しかしオフロードの時はとてつもなくワイルド。
この差が現状のレンジローバーやメルセデスGクラス以上に広く、どこに行っても恥ずかしくない完成度なのだ。
実際、小沢の読みだと前述の高級クロカン4WDユーザーを、結構な勢いで取ってしまうとも思うのだが、はたしてどうなることか。