小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●ゴーン体制から日本人トップ体制に
「クルマ作りは変わりましたね。前任者の西川CEOの時代から日本のモノ作りが帰ってきていると言っていい。その第一弾がキックスなのです」。
担当デザイナーからそう聞いた瞬間、疑問が少しづつ解けるのを感じた。
6月に発売、初期受注が1万台を越え、久々にヒットしている日産のコンパクトSUV、キックスe-POWERだ。
日産のオールニューカーとしては実に10年ぶりで、サイズも価格も日本にジャスト。
▲日産キックスX 価格:275万9900円
全長×全幅×全高は4290×1760×1610mm、車両本体価格は275万円から。
ライバルのホンダ・ヴェゼルやトヨタC-HRと比べると高めだが、キックスは現状ハイブリッド専用車なので、仕方ない部分もある。
それにも関わらず1ヵ月間の初期受注は1万台超と好調。正直、驚いた。
▲写真のXとXツートーンインテリアエディション(286万9900円)の2グレード構成 メカニズムは全車共通 生産はタイ日産が行う 日本では輸入車として販売
そもそもキックスは4年前にブラジルで発売された南米や中国向けのモデルで、今回の日本仕様もタイ生産なのだ。
かつてASEAN生産車は、日産マーチや三菱ミラージュしかり品質的に厳しい面も多く、過剰な期待はしていなかった。
だが、乗ってみると想定外。思っていた以上に内外装のクオリティが高い。
●クオリティアップ、e-POWERの上質化がすごい
まず良かったのが外観。
わかりやすい部分では、日本導入とほぼ同じタイミングで取り入れた新デザインのフロントグリルだ。
立体的なタテ型Vモーショングリル、質感の高いメッキ塗装により、ヴェゼルやC-HRに負けない存在感を醸し出す。
全体フォルムも、ほどよくマッチョなクサビ型でスポーティかつ塊感がある。
▲ボディサイズは全長×全幅×全高4290×1760×1610mm。トヨタ・ヤリスクロス(同4180×1765×1590mm)とC-HR(同4385×1795×1550mm)のほぼ中間
最も心配していたのがインテリアのクオリティだ。
ここがマーチやミラージュは決定的に安っぽかったが、キックスはそうじゃない。
大型センターモニターはもちろん、メーターは半分以上デジタル表示で、日産自慢の先進安全プロパイロット仕様。
事実、キックスは全車e-POWERに加えて、プロパイロットが標準装備。
イマドキ感がふんだんに取り入れられている。
マテリアル面でも、とくに「ツートーンインテリアエディション」のシートやインパネの質感が高く、このクラスの基準であるホンダ・ヴェゼルに迫る勢いを感じる。
同時に室内スペースを削ってでもスタイルに走りがちなコンパクトSUVにあって、キックスはユーティリティも重要視している。
リアシートはC-HRより広く、ラゲッジ容量は423Lとライバル以上。世界発売から4年の遅れを感じさせない総合力の高さなのだ。
なかでも感銘を受けたのは、キックス最大のアドバンテージともいえる、自慢の2モーターハイブリッドシステム、e-POWERの熟成度。
1.2Lエンジンを発電気と割り切り、加速を電気モーターのみで行う仕組みで、骨格は既存コンパクトカーのノートe-POWERと変わらない。
だが、モーター出力が80kWから95kWに、トルクが254Nmから260Nmにアップして、より思いどおりに加減速ができるほか、e-POWER独自のワンペダル運転とも言える、アクセル1つで加速から減速まで行える独自制御が進化。
妙なギクシャクがほとんど感じないのだ。
ハンドリングに関してもノートに比べて足回りを補強した効果もあって、背高SUVボディがハッチバックになったかと思えるほど自在に操れる。
ここまで全域でクオリティをアップした背景には経営体制の変化がある。
2年前にカルロスゴーンと決別、日本人トップとなりモノ作りの姿勢を変えた結果なのだ。
細かい品質チェックの面でも、タイから輸入したタイミングでいったん国内工場におさめ、出荷前点検を行う用意周到具合。
決算会見では「今後18ヵ月で12の新型車を投入する」と宣言した日産。
このキックスe-POWERからは、生まれ変わった日産が見えてくる。