小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●フリースタイルドアが特徴の新型SUV
久々にナゾだらけのクルマに乗った。
名前はマツダMX-30。話題の新型コンパクトSUVである。
▲マツダMX-30 4WD ハイエストセット・インダストリアルクラシック 価格:6SAT305万2500円 全長4395×全幅1795×全高1550㎜
まずナゾなのがドア形状で、SUVなのにイマドキ珍しい観音開き(マツダはフリースタイルドアと呼ぶ)採用。
それでいて全長4395×全幅1795mmは昨年発売のCX-30とまったく同一で、全高がわずかに10mm高いだけ。
つまり同世代ハッチバックのマツダ3も加えると、同じCセグメントに3タイプの似たようなサイズのボディが並ぶことになる。
▲MX-30はベース車両に個性豊かなパッケージオプションを選択して好みに仕上げる仕組み
それだけ聞くと、なんで作ったの? 無駄じゃないの? と思ってしまうが、狙いが違うどころか、作りが全然違う。
マツダ初の女性チーフエンジニア、竹内都美子さんによると、「開発はマツダ3と並行で進められ、互いはあまり意識していなかった」そうで、ドアを含むアッパーボディは形状が異なるし、アンダーボディもかなり違う。
▲クーペライクなSUVフォルムを採用 観音開きドアが大きな特徴 ホイールベース2655㎜
フロアはフレームの通し方こそ共通だが、他は違い、サスペンションはダンパー、スプリングはもちろん、アームまで違うとか。
だが、聞けば納得で、観音開きにするとドア側にセンターピラー構造を持たせることになるのでドアが重くなるし、自ずとフロアの強度配分であり、構造も変わるわけである。
●新しいライフスタイルを提案
パワートレインもかなり違う。
今回、発売された日本仕様は、156ps&199Nm、2リッターガソリンのスカイアクティブGエンジンまでは従来どおりだが、MX-30は、6.9ps&49Nmのスタータージェネレーターを持つマイルドハイブリッド仕様。
正確には「eスカイアクティブG」と名付けられている。
▲ハイエスト・インダストリアルクラシックのインテリアはブラックのクロスとブラウンの合成皮革を組み合わせる
正直、エンジンを全開にした時のパワーはほとんど変わらないはずだし、ギアボックスも同じ6ATだが、発進加速はモーターアシストにより明らかに力強くて滑らか。
驚きは乗り心地の良さだ。
ここ最近の新世代マツダ車は、ドライバーの骨盤を立てて座らせ、レスポンスを重視した、硬めの足回りが特徴だったが、MX-30は明らかに違う。
心を入れ替えたように柔らかテイストを取り入れている。
さらに決定的に違うのがエクステリアとインテリアだ。
まず「塊感」。ここ最近のマツダ魂動デザインが持つ、光の当たり方で移ろいゆく陰影のデザインではなく、どっしり力強い。
ボディカラーの凝りようもいままでにないレベルで、モノトーンも選べるが、エレガントな2トーン、3トーンも選べる。
とくに後者は圧倒的にオシャレだ。クルマというよりファニチャー的であり、ファッションのようだ。
インテリアも圧倒的に個性的。
そもそも観音開きドアからして開放感が他車とは違うが、いままでと違う握りやすい薄型シフトが、フローティングデザインのコンソールに乗り、これまたオシャレ。
シフト位置とエアコン操作パネルが妙に近く、使い勝手は新鮮だ。
マテリアルも凝っており、インパネはほぼ全面本革調ソフトパッドが使われているだけでなく、鮮やかなコルク材がそこかしこに配され、時折3トーンの配色を魅せる。
まるでIKEAあたりの、欧州ファッションブランドが提案してきたクルマのようだ。
▲モダンコンフィデンスというインテリアはグレークロスにホワイトの合成皮革の組み合わせ
MX-30は明らかに既存のクルマ業界におけるジャンルやカテゴリー分けから生まれたクルマではない。
既存の枠にとらわれない、新しいライフスタイル商品なのだ。
それだけに正直難解で、説明し難いが、いままでのマニアックなマツダ顧客層とは異なる、普通の生活者を狙っていると思われる。
これはこれで、いまのマツダに求められている商品だ。
小沢の予想では、美大出身のアート女子であり、美術館が好きなセンスのいいオシャレなママさんに刺さる気がする。
もうひとつ残るナゾは、このクルマが2019年10月の東京モーターショーではピュアEVとして発表され、欧州でも先行発売される点だ。
小沢自身、MX-30が国内でマイルドハイブリッドとして発売されると聞いて、あれ? ピュアEVじゃなかったの? と思ったが、ここにはマツダの思案しまくった販売戦略がうかがえる。
CO2規制の厳しい欧州を中心に、マツダもピュアEVを売らなければならない。
だが、既存ハッチバックやSUVのボディ使って、中身をEV化しても新しくない。
斬新さがないとピュアEVは売れないし、話題にもならない。
そこで新コンセプト、新デザインのコンパクトEVをまず欧州を中心に売り出し、その後、マイルドハイブリッド版も追加する予定だったのだ。
日本も本来はEVから売りたかったが、台数的にも生産的にもマイルドハイブリッドからのほうが売りやすい。
そこで、モーターショーでEVイメージを先行させたうえで、現実的な販売に踏み切ったのではないか。
▲乗り心地は硬すぎず良好
本来ならマツダもホンダeのように、ピュアEV専用ボディ、専用デザインで売りたかったはず。
その方がブランドイメージであり、電動化の新しい戦略が打ち出せるからだ。
だが、マツダにその余裕はなかったし、それでは利益が出なさすぎると判断したのだろう。
MX-30は、電動化、現状打破といろんな意味でマツダの未来と期待を背負ったクルマなのだ、おそらく。