「プロトタイプ初試乗」トヨタ・ミライはビックリするぐらいの全面刷新! なぜアストンマーティンばりの4ドアクーペに生まれ変わったのか

TOP.jpg小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』

●トヨタがアストンマーティンを作っちゃった!? 
 
 2014年デビューの事実上の世界初の量産燃料電池車、トヨタ・ミライの2ndモデルプロトタイプに初試乗した。
 
 発売は12月の予定だが、雨の富士スピードウェイは驚きの変貌だった。
 
 燃料電池車は、貯めた水素ガスと空気中の酸素を反応させて発生した電気で走る一種のEVで、かつては「夢のクルマ」といわれた。
 
 1960年代のジェミニ宇宙船にも使われた先端技術。当時の宇宙飛行士は燃料電池で発生させた電気を使い、水を飲んだのである。
 
 燃料電池は現在も白金などの貴金属を使ううえ、高度な金属加工技術も求められるので原価がかさむ。
 
 一時はプロトタイプ1億円ともいわれたが、ミライの1stモデルは723万円で発売。

 がんばったが、結果として約5年間での累計販売は国内約3400台。
 
 これを少ないと思うか多いと思うかだが、国が挙げた販売目標は20年までに累計4万台!正直まだまだ。それもあってか新型ミライはまったく別モノに生まれ変わった。
 
 現状、新型車の多くは、ほぼ2世代は共通プラットフォームを使うがミライは違う。1stモデルの骨格を捨て、新型はレクサスなども使われるGA-Lプラットフォームを採用したのだ。
 
 同時にデザインやコンセプトも一新。スタイルは個人的にはアストンマーティンであり、メルセデス・ベンツCLSもビックリの超セクシーなFR4ドアクーペフォルムに。

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 全長×全幅×全高は4975×1885×1470㎜。1stモデルより85㎜長く、70㎜広くて、65㎜も低い。
 
 1stモデルのずんぐりむっくりしたフォルムから考えると狙いは歴然だ。
 
 チーフエンジニアの田中義和さんは「本当にクルマ好きのファンに選んで頂けるクルマを作り、スペック的にも申し分ないようにした方が、水素ステーションなどの多少の不便性を乗り越えてもお乗り頂けるはず」という。

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 結局、CO2を出さないという高邁な理念だけでは、お客さんは購入まで至らない。「燃料電池車だから買ってもらう」のではなく、「クルマとして単純に欲しくなる」作戦へとシフトしたのだ。
 
 実際、2ndミライは、そういう想いがヒシヒシ伝わってくる出来だった。

●走りは「よくできたFRスポーツ」そのもの

 まず印象的なのは全体の伸びやかさ。単純に全長4.9m超で全幅1.9m近いクーペフォルムは凄い。

 現行カムリにも通じる横縞グリルは好き嫌いがありそうだが、フォルムは問答無用にカッコよい。
 ボディサイドにアストンマーティン・ラピードやメルセデスCLSほどの抑揚はないが、そこはトヨタらしいマジメさ。
 
 リアのクーペフォルムは本当にスポーティで、ルーフからなだらかにテールへと繋がる。リアコンビネーションランプはもっとハデにしてもよかった気がするが、それはミライらしい奥ゆかしさだろう。

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 乗った時の印象も1stモデルとはまったく異次元。ドライビングポジションは、ヒザから先がすっぽりノーズに収まるもので、インパネとの距離も近く、クルマに「乗る」というより「着る」ような感覚。
 
 インパネ中央には12.3インチのワイドモニターが備わり、インパネそのものもソフト素材に覆われ、上質感は上々。

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 ミライならではの空気の清浄度を示す「エアピュリセンサー」もユニーク。
 
 燃料電池車は排ガスを出さないどころか、周囲の空気をキレイにすることが可能で、そのレベルを示すのだ。
 
 一方、リアシートはそこまで広くない。1stモデルと比べて、全長とホイールベースが延長。身長176cmの小沢がゆったり寝そべることができるが、頭回りはさほど広くない。
 
 なにより今回は後席が3名乗車になったが、センター部は新たに収納された水素タンクのおかげでフロアが高くなっており、正直子供用。
 
 このあたりはまだまだ燃料電池車の苦労が見え隠れする。

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 燃料電池車は根本的に、通常のEVに加え、燃料電池スタックや水素タンクを収納する必要があり、内蔵パーツが多い。自ずと室内はピュアEVやガソリン車などより狭くなってしまうのだ。
 
 ラゲッジスペースも通常、全長4.9m台の4ドアクーペだと奥行きが長くなるが、リアシートの背中にタンクが収まっているため容量は少ない。
 
 新型は旧型より減って320L。ボディサイズのわりに小さいが、横幅をギリギリまで確保しているためゴルフバッグは3本積めるという。

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 最大の驚きは走りだ。
 
 新型はスタイリングと走りのよさにターゲットを絞り、前後重量配分はほぼ50対50を実現している。
 
 しかも標準で19インチホイールの大径タイヤを採用しており、まさにザ・スポーツセダンだ。
 
 ピークパワー&トルクは182ps&300psとイマドキのモーター駆動車としては高くなく、車重も1.9トン台と重め。
 
 よって絶対的速さは、テスラ・モデルSなどに比べると大したことはない。
 
 だが、EVの一種である燃料電池車らしい静粛かつ滑らかな加速と、なによりもハンドリングがすごい。
 
 あいにく雨のショートサーキットでの試乗だったが、コーナリング限界では妙なアンダーステアが出ない。キレイにステアリングを切っていくとスムーズにリアタイヤが滑り出す。
 
 ボディは大きいが、まさによく出来たFRスポーツそのものの走りをみせてくれたのだ。
 
 乗り心地はソフトで快適。単純にカッコいい4ドアクーペとして、ジャガーあたりのセダンやメルセデス・ベンツCLSと並べてもよいかもしれない。
 
 さらに今回、力を注いだのは航続距離だ。
 
 大容量水素タンクを1本加えて3本搭載し、燃料電池スタックの発電効率も高まったため、水素フル充填の状態からWLTCモードで850kmも走れる。
 
 この性能は凄い。おそらく市販されている燃料電池車としては世界最高レベルだろう。
 
 もちろん室内は狭めだし、パワーもそこそこ。なにより燃料電池車ならではの燃料補給の不便さもある。
 
 だが、価格はおそらく700万円を切り、補助金を使うと400万円台で買える可能性がある。その場合、同サイズの欧州4ドアクーペより確実に安い。
 
 もしくはクラウンの代わりに買えるスタイリッシュな4ドアクーペでもある。
 
 クルマ好きは「燃料電池車なんて」といわずにマジメに注目すべき1台なのである。

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