「走る三つ星レストラン」新型アルピナB3は、なぜそんなに味がいいのか?

TOP.jpg小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜18時50分TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』

 2019年の東京モーターショーで発表された新型アルピナB3に国内で乗った。

 アルピナとは、正式には「BMWアルピナ」というブランドで、1960年代にBMWチューナーとして始まり、本社に認められて、一時はホワイトボディをBMWから下ろしてもらい、自社チューンエンジンを載せてアルピナ車として販売されていた。
 
 現在もエンジンは自社で手組みされるが、ボディはBMWラインで製造され、そこにエンジンが送られ、アルピナとして販売されるという。
 
 B3の「B」はBenzene、つまりガソリンエンジンを表し、3は3シリーズの意味。

フロント.jpg
 
 最大の要点はその生産台数の少なさで、年間わずか1600台程度! 
 
 それも3シリーズ、5シリーズ、7シリーズのセダンからSUVまで合わせてだから、B3だけだと年間数100台、日本に入ってくるのはおそらく数10台レベルだろう。
 
 この数は恐るべき少なさで、いまやフェラーリが年間9000台、マクラーレンが5000台前後も作られているのだ。

リア.jpg
 
 アルピナいわく「これくらいでないと品質を保てないから」というが、アルピナは高くてもXB7の2498万円、B7の2597万円で、新型B3でも1229万円。
 
 現行ノーマル3シリーズの489万円スタートから考えると高いが、実力は1100万円級のトップモデル、M3セダンに並ぶ。
 
 そう考えるとこの少量生産ぶりでこの価格は安いとさえいえる。

●豊かなトルクを発揮するオリジナルエンジン

 見た目に驚くのは基本的な奥ゆかしさだ。

 全長×全幅×全高は4719×1827×1438mmで少量台数登録のため計測方法が異なるのだろう。

真横.jpg
 
 ベースのG20型3シリーズと微妙にサイズが違うが、基本少し車高が低いだけ。
 
 しかし、サイドにはアルピナならではの幾何学模様的ラインが入り、タイヤはフロント255/35/ZR19、リア265/35ZR19のアルピナ専用のピレリPゼロが収まり、フェンダーとツライチ。
 
 M3などと比べると、控えめながらハイパフォーマンスさを匂わせる。

ダッシュ斜め.jpg
 
 一方、インテリアはグレードにもよるがアルピナ専用ステッチが入ったステアリングホイール以外は、3シリーズのMパフォーマンスと共通。
 
 バックスキン調表皮を使ったバケットシートの品質感は高いが、これまたM3ほどのゴリゴリ硬派感はない。
 
 だが、エンジンをかけると微妙に排気音が分厚い。それもそのはずエンジンは次期型M3に搭載予定の3リッター直6ツインターボの「S58」型で、量産3シリーズとは別モノなのだ。

 それも面白いことに独自のタービンチョイスやクーリングシステム、エンジンマネジメントにより、M3では480~510psであるはずのピークパワーを462psにダウンさせ、ピークトルクを700Nmに上げている。

エンジン正面.jpg
 
 かつてやっていたピストンごとのバランス取りは、昔ほど製品のばらつきがなくなったためか、やってないという説もあるが、やはり心臓部は特別だ。
 
 走り出すと最初は微妙に違和感を覚える。ステアリングホイールの握りがM3並みに太めだし、かつてのアルピナほどに乗り心地は露骨にソフトではない。
 
 だがBMW・Mモデルと比べると明らかに快適で、駐車場の段差によるボディ横揺れなども少ない。
 
 さらに驚くのは街中での大人しさとはウラハラの俊敏性だ。2500回転から700Nmのトルクはさすがに異様で、ホントの低速域から踏めばグッと出る。
 
 正直、普通に軽く操っているだけだとちょっと足が硬めの3シリーズレベル。

前席.jpg

後席.jpg
 
 だが、怪物をつねに心臓部に持っている感覚が直ぐに伝わってきて、それは高速に出ると瞬時に解放される。
 
 まさしくいままでよりアクセルを1ミリ余計に踏み込んだだけで別モノの加速! 
 
 日本の高速では持てあますパワーが得られるのだ。それも全くストレスなくドラマチックに7000回転の高回転まで。
 
 今回の試乗では、ここがアウトバーンでないことを本当に残念に思った。
 
 よほどの無鉄砲でもない限り、日本でアルピナB3の真価は試せないだろう。
 
 本当の醍醐味は間違いなく時速100kmどころかオーバー200kmの世界だ。
 
 そこで恐ろしく安定し、かつ気持ち良いパワーとキレ味のあるステアリングが楽しめるクルマなのだ。
 
 それも速度を考えると恐ろしいくらいに良好な乗り心地で。
 
 日本でも東京ー名古屋、大阪間などのロングツーリングでは絶大な威力を発揮するはずだ。
 
 見た目はおとなしく、常時大人4名が快適に過ごせるが、それでいてパフォーマンスはちょっとしたスーパーカー並み。

 全然目立ちたがらない、日本のリッチで硬派なビジネスマンにオススメしたいスーパー4ドアエクスプレスである。

ラゲッジ.jpg

SNSでフォローする